年末年始、多くのヨガスタジオで開催される、『太陽礼拝108回』のワークショップやイベント。でも、そもそも太陽礼拝の効果やシークエンスに込められた意味を知っていますか?また、なぜ年末年始に108回なのか?身近でも奥深い太陽礼拝の理解を深めるために知っておきたいことをまとめています。
ヨガの初心者もヨガ経験者もやはり太陽礼拝は基本かつ奥が深いもの。シークエンスのポイントなどは情報が多いので、今回は少し違った角度から解説してみます。ヨガを始めてすぐならばあまり意識することもないかもしれません。しかし、太陽礼拝を繰り返していく上で徐々にその効果や意味などを知りたくなってきませんか?
今日はそんな疑問に答えるために、太陽礼拝の歴史や意味、その効果についてまとめてみました。
太陽礼拝の歴史
太陽礼拝(サンスクリット語で“スーリヤナマスカーラ”、英語では“サンサルテーション”と言います。)の歴史は、1910年頃に構成されたと考えられています。一般向けの健康増進を目的としたラジオ体操のようなものと、青少年を鍛錬するようなボディビル体操のようなものがあったと言われており、現在のような体系になったのはここ100年ほど。
原型を考案したのは、西インドのアウンド藩王国(当時)の藩王。この藩王国の王子は、4歳の時(1916年)に父王より太陽礼拝を教えられ、後に本も著し、イギリス植民地からのインド独立後も、外交官として活躍しながら太陽礼拝の普及にも尽力しました。
1920年代のインド独立運動の高まりにつれて、西欧の近代的体操に触発されたインド式体操が考案されていきます。そこで、当時のマイソール藩王国の藩王は、ヨガをベースにした身体鍛錬術の構築を期待し、自身の考案したヨガ体操に太陽礼拝も取り入れて、各地で普及活動を始めました。この藩王の弟子が、B.K.S.アイアンガーと、K.パタビジョイスです。
当時は、ヨガは専門の出家修行者の禁欲的な精神修行法と認識されており、一般人が健康のために行うものとは思われていませんでした。しかし、この同時期にヨガの普及に貢献した、リシケーシュ(リシケシ)のシヴァナンダは、本業だった医師としての視点から太陽礼拝をシヴァナンダヨガにも取り入れ、普及させていきました。
太陽礼拝のシークエンスに込められた意味とは?
アウンド藩王国の王子であった、アッパ・パントは、著書の中でこう語っています。
スーリヤナマスカーラを意識的に、正しく行うことができれば、体のエネルギーの中心を活性化することができる。(中略)あなたは創造の調和や喜び、そして美しさを感じることができるだろう。
“I(自)”と、“No, I(他)”という相違から生まれてくる混乱や衝突は打ち消され、純粋な愛、思いやり、慈悲の気持ちが内側に芽生えてくる。
スーリヤナマスカーラは、この“oneness(自他の融合、ひとつであること)”への意識へとあなたを導くだろう。
まさにヨガの真髄が詰まっていますね。だからこそヨガ初心者から経験者まで皆が太陽礼拝を基礎であり応用として捉えることも納得できるのです。
太陽礼拝を行うことで得られる効果とは?
それでは決まったアーサナ(ポーズ)とシークエンスを繰り返すことで得られる効果とはどんなものなのか?以下の3つにまとめています。
太陽礼拝の効果1. 決まった型とシークエンスの中で新たな気付きが得られる
日々のストレスの多くは、人間関係の複雑さから生まれますよね。太陽礼拝には決まった型があるので、毎日その型を繰り返すことによって深みが増していく感覚と、同じことをしても毎日違うのだという感覚を感じられます。
これはある意味矛盾していますが、日常生活でも同じ感覚を得ることができます。何回も繰り返すことで、“型”に対して余計なエネルギーを注がなくても自然に落ち着いた状態で動ける、対応できるようになります。
さらに慣れてきたら、自身の心の状態も感じられるようになるので、人と関わった時に、無理をせず落ち着いて調整がしやすくなります。
現代人は何もしていないときのほうが心が動きやすく、よほど普段から瞑想や座禅に慣れている方でない限り、ただ背筋を伸ばして呼吸しているだけで雑念が消えるかというと、中々難しいですよね。
太陽礼拝の効果2. ネガティヴな雑念をリセット
太陽礼拝のように決まった型を、次から次へと呼吸と連動させながら動くからこそ、気付けば自然と集中し、心が静かになるのではないでしょうか。
常にストレスにさらされている私たちの生活の中で、5分でも10分でも目の前のことに集中すると、ネガティヴな雑念はリセットされるのです。
太陽礼拝の効果3. 身体と心の柔軟性を高める
また、身体だけではなく心の柔軟性も生まれます。アーサナは、間違った筋肉を使って余計な力を入れてしまうと、呼吸が筋肉によってブロックされて、気持ちよく呼吸ができません。
せっかく行う太陽礼拝も、疲れやすく、精神的にもスッキリせず逆効果になるので、アーサナよりもまず、呼吸ありき。何度も繰り返し行うことで、呼吸もゆったりできるようになり、心身ともにいい意味で力の抜けた状態で次へ進むことができます。
年末年始に太陽礼拝を108回行う理由
太陽礼拝を年末年始に行うワークショップやスタジオが多いですよね。こうした歴史や意味、効果などを知ると納得できると思います。一年の終わり、または始まりに太陽礼拝を行うことで心身ともにリセットするということです。
また、このような年末年始の太陽礼拝は108回行うケースが多いです。なぜか?
人間には108つの煩悩があると言われています。この煩悩によって心身が乱され、自分探求のための知恵を妨げられているのです。除夜の鐘を108回打つように、太陽礼拝にも「1つの礼拝ごとに煩悩を1つずつ浄化していく」、という意味があるのです。
1日の始まりや年末年始、そして年度の切替時などに、そんなことを意識しながら太陽礼拝を行うと、次なる目的地へもすんなりと進める、そんな効果を実感しています。
太陽礼拝のアーサナ(ポーズ)と順序
では太陽礼拝を実際にやってみましょう。太陽礼拝はAとBの二つがあり、ここではオーソドックスな太陽礼拝Aをご紹介します。また、ヨガ流派により違いはあるのですが一番ポピュラーなシークエンスを取り上げます。
太陽礼拝Aに出てくるポーズ
太陽礼拝は全部で12のポーズをとりますが、出てくるヨガポーズは以下の8つです。
1. ターダーサナ
2. ウルドヴァハスタアーサナ
3. ウッターナーサナ
4. アルダ・ウッターナーサナ
5. クンバカアーサナ
太陽礼拝のシークエンス
上記であげた8つのアーサナを以下の順番に行っていきます。以下、それぞれのアーサナで簡単にコメントしていますが、詳細の内容については、太陽礼拝のAとB、それぞれ以下の記事で取り上げています。
実践の際には、そちらもあわせてご覧ください。
1. ターダーサナ
頭上から一本の糸で引っ張られているようなイメージでまっすぐ背筋を伸ばして立ちます。
2. ウルドヴァハスタアーサナ
息を吸いながら両手を空に上げます。
3. ウッターナーサナ
息を吐きながら前屈し、手の平を床に着き、指先は足先と同じラインに揃えます。
4. アルダ・ウッターナーサナ
息を吸って指先を立て、今度は膝を伸ばして上体を半分上げ、目線はやや前方に。
5. クンバカアーサナ
息を吐きながら手の平を床に着き、吸いながら足を後方へ伸ばします。
6. チャトランガ・ダンダーサナ
体一直線のまま息を吐きながら肘を曲げ、お腹は引き締めたまま目線は大地の方へ向けます。
7. ヴァムカシュヴァーナーサナ
息を吸いながら上体を前方へスライドさせ、足の甲を床につけて肘を伸ばし目線は斜め上へ。
8. アドームカシュヴァーナーサナ
つま先を立てて、息を吐きながらゆっくりとお尻を空高く突き出します。
9. アルダ・ウッターナーサナ
目線を手と手の間に向け、そこをめがけて足を片方ずつ戻し、息を吸って膝を伸ばして上半身を軽く上げ、指先は大地につけたまま、目線はやや前方へ。
10. ウッターナーサナ
息を吐きながら手の平を大地につけ、胸と腿をつけて深い前屈です。
11. ウルドヴァハスタアーサナ
息を吸いながら上体を起こし、両手を空に上げます。
12. ターダーサナ
息を吐きながら両手を胸の前で合掌(アンジャリ・ムドラー[Salutation Seal、合掌のムドラー])をします。
これらの12個のポーズを太陽礼拝1回として、繰り返していきます。
始めたばかりでは、順序を覚えるのが精一杯かもしれません。しかし、繰り返していくことで徐々に意識を自分の内側へ持っていけると思います。冒頭でお話ししたように太陽礼拝は基本でありながら、とても奥深いものです。太陽礼拝を習慣とすることで時には自分の変化を察知したり、年末年始に行うことで自分をリセットするなど、様々な場面でやってみましょう。
きっと何かしらの変化や気づきが得られるはずです。
参考文献: ヨガ・ボディ-ポーズ練習の起源
太陽礼拝を深く学ぶ記事
太陽礼拝の基礎
以下の記事にて太陽礼拝を取り上げています。太陽礼拝の意味や効果から太陽礼拝のシークエンスの詳細まで。これを読めば太陽礼拝の全てがわかります。
太陽礼拝のアーサナを個別に解説
太陽礼拝に登場する各ポーズ一つ一つを詳しく解説しています。ポイントからありがちなミスアライメントまで、太陽礼拝を上達したいなら必ずチェック。ヨガ初心者の方はもちろん、ヨガインストラクターレベルの方にも役立つ内容です。