太陽礼拝Aに登場する8つ目のアーサナは”アドムカシュバーナーサナ”で、“ダウンドッグ”とも呼ばれ、最もポピュラーなヨガポーズ。全身の筋肉を大きく使い、身体の各部位に様々な効果をもたらします。初級クラスから上級クラスまで、また流派をまたいで登場するアーサナですので、ポイントをしっかりと押さえておきたいポーズです。
太陽礼拝Aに登場する各アーサナをありがちなミスアライメントを元に解説する記事もこれで最後。8つ目で最後の今回も、チャック先生に指導いただいたミスアライメントのチェック項目を元に、このポーズを解説していきます。
アドムカシュバーナーサナの意味
サンスクリット語で、アドーは「下」、ムカは「向く」、シュバーナは「犬」という意味から、このアーサナの日本語名は「下を向いた犬のポーズ」と言います。
英語名では、「Downward Facing Dog(ダウンワードフェイシングドッグ)」と言われ、略して“ダウンドッグ”や、“ドッグポーズ”という呼び名でも親しまれています。犬が前肢を踏ん張り、頭を地面につけるように伸びをしている姿に似ているのでこの名がつけられました。
アドムカシュバーナーサナの効果
このアーサナは肩周りや背中、脚など、全身を大きく動かすポーズであるため、疲労した時にこのアーサナを長く行えば、疲れがとれ、心身に生気が蘇ると言われています。陸上競技をするアスリートにとっては、試合での疲れをとるのに効果的なだけでなく、走るスピードを上げたり、敏捷性を養うことにも役立つアーサナだと言われています。また、高血圧に悩む人もこのポーズを行って良いとされています。
その他、このアーサナを行うことで得られる効果としては、
- かかとの痛み緩和
- 足首の強化
- 肩甲骨周辺の凝り緩和
- 肩関節炎の緩和
- 腹部の筋肉強化
- 心臓の鼓動を整える
- 脳細胞を若返らせる
- 脳に生気を与える
など、全身へさまざまな影響をもたらし、気分を爽快にすると言われています。
※ 効果参考図書:「ハタヨガの真髄」より
アドムカシュバーナーサナのミスアライメント
全身へのさまざまな効果が見込まれ、初心者にもわかりやすいアーサナであることから、さまざまなクラスでフローのなかに取り入れられているのですが、ポピュラーなアーサナであることから、改めてきちんとした説明がなされないままクラスが進んでいくことが往々にしてあります。
陥りがちなミスアライメントを参考に、今一度ご自身のダウンドッグを確認してみましょう。
- 手の親指と人差し指が浮いている
- 肘が伸びすぎている
- 肩と首の間に空間がない
- 肩甲骨が寄っている
- 足の指がマットをつかんでいる
- かかとが内側に入っている
- 膝が伸びすぎている
- 膝蓋骨が落ちている
- 腿の前側が緩んでいる
- 腿の裏側が伸びていない
- 坐骨が下を向いている
- 腰が反っている
- 首に力が入っている
この中から、今回は3つをピックアップし、それぞれ解説していきます。
3. 肩と首の間に空間がない
なぜ、安定しないのか?
このアーサナを安定させられない人の中には、腕の回し方が間違っていたり、意識できていなかったりすることがあります。腕や肩周りが疲れて長くキープできない人も同様です。
このアーサナの姿勢では、腕はバンザイをしたときと同じ位置になります。イメージとしては、少し脇を締めるような位置に持っていき、原則的に、肩関節は外旋することになります。肩から腕を外旋させるようにすると、強度が増し、余裕ができて、安定して体を支えることができます。
腕を内側に回すと、首が詰まるような感覚で、肩関節の骨同士が衝突するような形になります。例えば、両手を両サイドから頭上に上げる動作をするときに、腕を内側に回して上げてみると、途中から窮屈になり、上まで上がりきらなくなりますが、腕を外側に外旋させて頭上に上げると、楽に伸ばすことができると思います。
このように腕を上げるときには、腕は外旋させることが必要なのです。
アドムカシュバーナーサナのポイント
「アドムカシュバーナーサナ」も同様で、アーサナをとる際は上腕の外旋が必要になります。さらに、手のひらは床に着くため、肘から下の前腕は回内(内側に回す)となります。つまり、腕は外側に、手は内側に回すという逆の動きが、このアーサナでは重要なポイントとなるのです。
力は拮抗して強度を増しますが、この腕と手の逆の動きが、肘を安定させて余裕を増し、身体を支えることができるというわけです。
さて、少し話が戻りますが、先ほど、腕を内側に回して頭上に上げようとした際、肩と首が詰まったような感覚で、途中から腕が上がらなかったかと思います。しかし、腕を外旋した際は、その詰まりは取れて、楽に上げることができましたよね?
つまり、このアーサナで大事なポイントである、上腕の外旋と前腕の回内をきちんと行なっていれば、肩と首との空間が自然とあき、余計な詰まりがとれるのです。このアーサナをとっていて、肩や腕が疲れてきたとき、今一度、上腕の外旋、前腕の回内を意識して、首と肩との空間をあけてみてください。
首肩周りの詰まりがとれて、少し楽にとることができると思います。
5. 足の指がマットをつかんでいる
このアーサナをとるとき、どうしても踵が浮いてしまうという方がいらっしゃいますが、このアーサナでは、踵を押し出すようにして伸ばして床につけることが、下半身の安定と上半身と下半身との連結を高めるためには必要なポイントです。
踵が浮いてしまうことで、足先で下半身を支えようとして、足の指に余計な力が入ってしまいます。踵が床につかない原因は、太ももの筋肉が固い場合もありますが、足首の筋肉の柔軟性を上げることがコツとなります。
足首の筋肉とは、主にふくらはぎにある筋肉が関係しています。ふくらはぎの筋肉には、膝を介して関節を二つまたぐ二関節筋の「腓腹筋」と、関節を一つだけまたぐ単関節筋の「ヒラメ筋」の2種類あり、ダウンドッグは膝を伸ばしているため、両方の筋肉を使っていることになります。
もし、手と足の幅は問題ないのに踵が床につかない場合は、膝を曲げてアーサナをとるか、足の指を上げてすねを緊張させてみてください。踵が床につきやすくなるかもしれません。
11. 坐骨が下を向いている
前屈が苦手な人の特徴として、坐骨が下を向いていることがあります。これは、脚を伸ばそうとすることで起こりやすい動きなのですが、坐骨を下に向けてしまうと、腰が曲がって腰椎に負担がかかってしまいます。
坐骨を天井に向けるポイントは、腹部を引き締めて股関節を引き込むことです。坐骨をしっかりと天井に伸ばすと、脊柱が強く伸ばされ、このアーサナを効果的にとることができます。股関節の引き込みを効率良く行うためには、股関節の前を通っている「腸腰筋」を収縮させることが必要です。
「腸腰筋」とは、大腰筋と腸骨筋からなり、これらの筋肉は、腰椎を左右から挟むように位置しており、股関節のバランスを担っている重要な筋肉です。立っているときの重心は第二仙椎の前あたりと言われており、腸腰筋は身体の重心線が通る位置にあるため、どのような動きになっても、重心の動きを制御するのに適した筋肉なのです。
そのため、腸腰筋を使って股関節から屈曲し、坐骨を上に向けることは、このアーサナのバランスを取るためには重要なポイントというわけです。
キープ時間をいつもより長くとって練習を
身体全身に効果的で頻繁に登場するアーサナだからこそ、いつもの“クセ”が出てしまいやすくなりますが、間違ったアライメントで続けていては、余計な力が加わったり、必要な力があちらこちらに分散して逆効果となります。
的確にアーサナがとれているかどうかは、アーサナをとったまま自然に5呼吸できれば、無理なくとれているという目安となります。呼吸を繰り返しながら、身体の安定感や心の状態を味わえるよう、キープ時間をいつもより少し長めにとりながら練習してみてくださいね。
奥深い太陽礼拝は繰り返すことで新たな発見がある
チャック先生のご協力を得ながら、太陽礼拝Aの各アーサナを起こりがちなミスアライメントを元に、詳細に解説してきました。太陽礼拝は基礎でありヨガをやると必ず通る道です。年末年始になると多くのスタジオがワークショップを開いたり、紹介した各アーサナは多くのヨガクラスで頻繁に登場するものばかり。
一方、普段のスタジオだと大勢の中で細かなインストラクションを得るのは難しいものがあります。そのために見よう見まねで間違ったアライメントでポーズをとるばかり、本来の効果を引き出せていない方も多いです。気持ち良いということも大切なのですが、ちょっとしたアライメントの修正で、姿勢改善や自律神経の調整など、本来のヨガが持つパワーを得られます。
ぜひ、これらの記事を頻繁に参考にしながら、自分の太陽礼拝をものにしていってください。
ヨガポーズガイド:下向きの顔の犬のポーズ(アドームカシュヴァーナーサナ)
太陽礼拝を深く学ぶ記事
太陽礼拝の基礎
以下の記事にて太陽礼拝を取り上げています。太陽礼拝の意味や効果から太陽礼拝のシークエンスの詳細まで。これを読めば太陽礼拝の全てがわかります。
太陽礼拝のアーサナを個別に解説
太陽礼拝に登場する各ポーズ一つ一つを詳しく解説しています。ポイントからありがちなミスアライメントまで、太陽礼拝を上達したいなら必ずチェック。ヨガ初心者の方はもちろん、ヨガインストラクターレベルの方にも役立つ内容です。