誰でもできそうだからこそ難しいタダーサナ
太陽礼拝でも出てくるタダーサナはヨガの基本ポーズであり、とても難しいポーズです。一見、ただまっすぐと立っているだけのように見えますが、解剖学的観点から正しい位置を突き詰めていくととても難しく、“あなたの”正しいタダーサナをアシスト・アジャストしようとすると、1日だけでは足りないくらい。
普段の生活の座り癖、立ち癖などから骨格のズレが生じ、そのまま長年生活してしまっているため、正しい骨格の位置でタダーサナをとろうとすると、なんだか逆に違和感を感じたり、正された方がズレているのでは?という感覚にさえなるほどです。
しかし、ヨガのすべてのポーズは、このタダーサナを曲げたり伸ばしたり、ねじったりしてできているので、タダーサナをマスターできなければ、他のポーズもポイントがズレたまま深めてしまうことになりかねません。
まずはタダーサナの基礎知識から
まずは、タダーサナの名前の由来から紐解いていきましょう。
タダーサナの名前
サンスクリット語表記: ターダーサナ、タダーサナ、ターダアサナ(サマスティティ) ताडासन Tadasana(Samasthiti)
英語表記:Mountain Pose (マウンテンポーズ)
日本語表記:山のポーズ
タダーサナの意味をサンスクリット語から知る
「タダーサナ」は、山のポーズと言われています。その由来は以下からきています。
- ターダ=山
- アーサナ / アサナ=ポーズ
- サマ=直立、まっすぐ、不動
- スティティ=不動の姿勢、堅固
つまり、「しっかりと山のように立つポーズ」というわけです。
タダーサナの効果を正しく知って難しさを理解しよう
ただ立っているだけなんて思っている、あなた。実はタダーサナにはしっかりとした効果があるのです。知らない方はしっかりと押さえておきましょう。
靴の減り方を見ればわかるように、私たちは普段、正しい立ち方に意識を払いません。片方だけに体重をかけたり、踵に体重が寄っていたり、足の外側で歩いていたりなど、間違った立ち方や偏った体重の掛け方によって、脊椎から体に歪みが生じていきます。その結果、お尻がたるみ、お腹が出て、背骨にさらに負担が生じるため、心身ともに疲れてしまうというわけです。
正しいタダーサナで立つということはその逆で、お尻が引き締まり、お腹が引っ込み、胸を張ることができるため、筋力強化と姿勢を整える効果が期待されます。そして、身体は軽くなり、頭も敏活になります。意外と、タダーサナは腹筋(ABS)を使う、バランスのポーズなのです。
※ 参考文献「ハタヨガの真髄」
タダーサナの流れとポイント
1. 足の人差し指と中指の間と、膝蓋骨がまっすぐ正面を向くように立ちます。
普段、多くの方は足先が少し外向きなので、内股に感じるくらいがちょうどいいかもしれません。
2. 足を少し開き、立ちます。
アイアンガーヨガ系は足を少し開き、足幅は股関節幅くらいで立ちます。
アシュタンガヨガ系は、足を閉じて立ちます。
シークエンスなど、フローの中では足幅を閉じることが多いのですが、ここでは解剖学的に、より安全である、股関節幅に開くアイアンガー系で説明します。解剖学的な正式名称と一般的な呼び名と入り混じっておりますが、わかりやすさを重視しておりますのでそこはお気になさらずお願いいたします。
3. 足の五本指の間を広げ、母指球、小指球、かかとの両端の、計4点でしっかりと大地を捕らえます。
手の指を使って足の指と指の間を広げてみて感覚をつかむのもいいですね。足の指先は力が入らないようにします。
4. 土踏まずのアーチを意識して、しっかりと体を支える土台を作ります。
足の内側のアーチは、母指球と踵の内側を結ぶ線(内側縦足弓)を意識し、母指球に重心を置き、大腿骨を外旋させます。
足の外側のアーチは、小指球と踵の外側(外側縦足弓)を意識し、小指球に重心を置き、大腿骨を内旋させます。
5. 真正面と真横から見たポイント
真正面から見たときは、
- 第二趾(第二足指、足の人差し指)と第三趾(第三足指、足の中指)の間か第二趾
- 膝蓋骨の中心
- 骨盤の付け根
が1本線状にくるようにします。
真横から見たときは、
- 外果(外くるぶし)
- 膝蓋骨の外側
- 大転子
- 肩関節
- 耳の後ろ
- 泉門(頭頂、サハスラーラチャクラ)
が1本線状にくるようにします。
6. 大腿四頭筋を引き締めて、膝蓋骨を持ち上げた状態をキープ。
しかし、ここで膝が過伸展(ハイパーエクステンション)にならないように注意し、膝のロックは外します。
7. 上前腸骨棘(ASIS)の位置は左右同じ高さに揃えます。
どちらかが高ければ、下がっている方の骨盤を引き上げます。このとき、踵が浮くようであれば、三角ブロックやブランケット、タオル、ヨガマットなどを丸めて敷いて高さを揃えます。
8. バレエと比べて、ヨガはお尻のカーブ、背中のカーブ、首のカーブを自然な状態で作ります。
ただし、この時、お尻が突き出ないように、お腹を背中の方にぐっと引き寄せて、骨盤底筋群を引き締めます。
女性は上前腸骨棘(PSIS)より上後腸骨棘(ASIS)が2cmほど高い位置にあるのが一般的な理想の骨盤の位置。男性は上前腸骨棘(PSIS)と上後腸骨棘(ASIS)が、ほぼ同じ高さにあることが目安です。
9. 肩甲骨の左右の高さを揃えます。
日本人は特に方関節が中に入り気味なので、ショルダーオープン=“胸を開く意識”を持ちます。
10. 肩関節の位置を揃えます。
上腕は外旋、前腕は回内します。ヨガではこの腕の使い方を意識します。
11. 顎を引きます。
このとき、多くの方が「顎を引く」と聞くと喉を締めるような、上目遣いの位置に持って行きますが、下に引くのではなく、後ろに引くイメージです。
12. 目線(ドリシティ)は真正面。
猫背の方は少し上を見るように意識します。
13. 胸の前で合掌(アンジャリ・ムドラー)。
気分によって、胸の前で合掌(アンジャリ・ムドラー)をとっても構いません。
基本中の基本だからこそ見直そう
いかがでしたでしょうか?
ただ立っているだけのようで、突き詰めると実はとても時間を要するポーズだということがお分かりいただけたのではないでしょうか。積み木を積み上げていくとき、下がずれていると、上に向かっていくほどそのズレが大きくなっていきます。ですから、まずは土台をしっかりと作ることが大切なのです。
とはいえ、ヨガは、“きょう、いま”、の自分にとって、心地のよいところを探りながらアーサナをとることでもあります。あまり厳密に意識しすぎるとかえって心身のバランスがとりにくくなるかもしれません。そのため、まずは心穏やかにタダーサナをとりながら、集中して、いまの自分の心の状態、体の状態を観察することから徐々に進めていっても良いですね。
スタジオレッスンなどでは、なかなかじっくり時間をかけて正しいアライメントを意識できないのですが、知識として予めポイントだけでも押さえておくと、日々練習していく中で、今日は足元、明日は骨盤、など、少しずつポイントに意識を向けていくことができます。
間違ったアライメントのまま掘り下げていくことほど危険なことはありませんので、集中できるようになったら、今度はシークエンスに慣れて流れ作業のようになってしまう前に、タダーサナをマスターしましょう。
※1 参考文献「 ハタヨガの真髄_600の写真による実技事典」
太陽礼拝を深く学ぶ記事
太陽礼拝の基礎
以下の記事にて太陽礼拝を取り上げています。太陽礼拝の意味や効果から太陽礼拝のシークエンスの詳細まで。これを読めば太陽礼拝の全てがわかります。
太陽礼拝のアーサナを個別に解説
太陽礼拝に登場する各ポーズ一つ一つを詳しく解説しています。ポイントからありがちなミスアライメントまで、太陽礼拝を上達したいなら必ずチェック。ヨガ初心者の方はもちろん、ヨガインストラクターレベルの方にも役立つ内容です。