ストレスを感じると扁桃体からの信号で副腎からストレスホルモン、コルチゾールが分泌されます。コルチゾール分泌が長期化すると私たちの心と身体に様々な症状を引き起こすことはよく知られています。しかし、最新の科学でヨガや瞑想をはじめとするいくつかの習慣がストレス対策として有効であることがわかってきました。ストレスに負けない心と身体をつくる4つの習慣をご紹介します。
「ストレス」ほど曖昧な言葉はありません。ある事象を指していたり、またはその事象から沸き起こる自分の感情を指している場合もあります。ストレスの分類方法はいくつかありますが、大別して心理的ストレス、社会的ストレス、生物学・科学的ストレス、環境的ストレスに分かれます。
例えば、寝不足が続き調子がすぐれないといったストレスは環境的ストレスであり、花粉症やインフルエンザウイルスといった症状でもストレスと言え、これは生物学・化学的ストレスに分類されます。問題は、将来の漠然とした不安を感じた時のストレス、何かしらの感情から沸き起こる心理的ストレスや職場などの人間関係などのこじれから生じる社会的ストレスの対処でしょう。
しかし、ストレスに立ち向かう様々なアドバイスは、私たちには目標や挑戦があるからこそ努力し発展することを、時に見失っているようにも思えます。
では、ストレスとは一体何なのか?
ストレスとは自然なバランスの乱れ
人間は元来、危険に対し闘争・逃走本能が備わっており、現代にまで受け継がれていると言います。6〜700万年前に誕生した人類は捕食者から身を守るため、危険を察知した時点で脳を活性化させ身体中にあるホルモンや神経伝達物質を反応させることで突発的な状況で素早く判断し迅速に行動を起こします。
危険の信号を受け取った扁桃体はメッセージを発信します。まずノルアドレナリンを分泌し交感神経を経由して副腎を刺激。そして副腎はアドレナリンを血液中に送り込むことで心拍数と血圧を高めます。アドレナリンは瞬時に発せられますが、危険が過ぎることで治ります。
ストレスは危険との遭遇など、自然なバランスが崩れた時にとる、人間の闘争・逃走行動をとるために必要なスイッチであり危険を回避するための能力を高めるものなのです。※1
ストレスの長期化が大問題
しかし、ストレスの長期化は有害なものになります。
ストレスが長時間に渡ると副腎は次にコルチゾールを分泌し始めます。コルチゾールは、分泌が長引くと副腎の機能を弱め「副腎疲労」を引き起こします。副腎疲労は疲労、無気力・無関心、睡眠障害など多くの身体の不調や症状と深く関わっていると指摘されていますが、このようにストレスの長期化が私たちの身体の不調やメンタルのバランスを崩すのです。
複雑な社会環境では闘争・逃走もできない
捕食者に狙われることはなくなりましたが、現代の社会環境は複雑になりました。現代社会は、私たちは目の前のストレスを回避するために、闘争や逃走といった手段を講じることを許してくれません。
例えば、理不尽な上司に不条理な要求を突きつけられた場面では強い感情が生まれ、ストレスが高まります。その時、その上司に暴力的な措置をとることはできませんし、無視してその場を立ち去り、会社を辞めてしまうことも一般的にはできません。こうして私たちはストレスをすぐに解決することができず、ストレスの長期化を余儀なくされるのです。
ノルアドレナリンとアドレナリンが分泌されるストレス反応はいわば、危険に対する適応行動であり優秀な能力とも言えますが、解決できないストレスはコルチゾールが分泌され続け、副腎疲労を起こし、私たちの精神や身体に有害な影響を及ぼすのです。
自分なりのストレス対策を持っておこう
このような複雑な現代に生きる私たちは闘争も逃走もできないとすると、ストレスに立ち向かうことはできないのでしょうか?しかし、最新の科学からいくつかの習慣や行動がストレス対策として有効であることがわかっています。それは、
- ストレスの捉え方を変える
- ランニング、ウォーキングなどの有酸素運動
- マインドフルネス瞑想
- ヨガの呼吸法とポーズ
です。
下記で具体的に見ていきましょう。
1. ストレスはむしろ良いと「捉え方」を変える
健康心理学者のケリー・マクゴニガル氏は、TEDの講演で「ストレスと友達になる方法」を提案しています。※2 ハーバード大学で被験者に対して数学のテストを実施したのですが、試験官は被験者を困らせるよう訓練されており、次から次へと数字に関する質問をしていきました。
普通の人間なら高圧的な態度で、矢継ぎ早に数字のテストを投げかけられたらうまく答えられずに緊張し、それがストレス反応になるはずです。しかし、同じテストを実施したあるグループにはストレス反応を有用なものとして、考え直す様に教えておきました。
具体的には、高鳴る鼓動は行動に備えて準備をし、早くなった呼吸は問題ではなく、むしろ脳により多くの酸素を送り込んでいるなど。すると、このグループの被験者は不安が少なく自信を持てる様になっただけでなく、血管はリラックスしたままの状態を維持することが確認されました。
実際、成人3万人を対象とした8年間にわたるストレスと健康との関連についての追跡調査の結果、重度のストレスを感じていてもストレスが健康に良くないと信じていない人の死亡率は、非常に低かったそうです。つまり、ストレスの「捉え方」次第でストレスに対する身体的反応が変わることが確認されたのです。
確かに、今すぐに考え方を改めろといっても難しいかもしれません。しかし、あなたのマインド、感じ方により身体の反応が変わるということは心と身体が密接に繋がっていることでもあります。
目の前の問題の度合いにもよりますが、ストレスと対峙した状況で一度冷静になり、これは自分の試練であり挑戦であると捉えることで改善できる可能性があるのです。
2. 有酸素運動を定期的に行う
運動をした後に気分の良さを感じることは誰でにでも経験があります。これは単なる気分ではなく、ストレス対策として有効であることが科学的に証明されています。
ランニング、ジョギングなどの有酸素運動は、記憶・学習などの認知機能を促進させる脳由来神経栄養因子、BDNFの分泌を増加することがわかっています。BDNFは脳の活動を活性化させ、コルチゾール分泌の長期化による慢性ストレスの有害な影響に負けないようにしてくれるのです。※ 1
また、BDNFは傷ついた細胞の回復プロセスを早めコルチゾールが増えすぎないよう監視するだけでなく、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンを増やすのです。
なお、ストレスにより過剰に分泌されるコルチゾールは、記憶を司る海馬を傷つけることと相関があることがわかっています。つまり慢性的なストレスによる海馬のニューロン新生の阻害が、記憶障害やうつ病等と関連があると考えられているのです。有酸素運動によるBDNF増加はニューロン新生を助け、これらの症状を緩和すると考えられています。※ 1
ランニングの効果は絶大です。嫌なことがあるなら、迷わず戸外に出て走りましょう。
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3. マインドフルネス瞑想を習慣にする
マインドフルネス瞑想とは「意図的な気づき」とも言われます。「今この瞬間」の自分の体験に意識を集中し、自分がいま何を考えているか、何を感じているか、周囲で何が起きているかを受け入れ、気づくことです。
単にこれだけ?と不思議に思う方もいるかもしれません。しかし、マインドフルネス瞑想はストレス対策として効果を発揮することが科学的に証明されています。最近では科学的な研究が進み、今ではアメリカ心理学協会もストレス対策として推奨するほどの地位を獲得しています。
また、2005年ハーバード大学での実験によると、1日平均27分の瞑想でストレスが大幅に減少しただけでなく、被験者の学習や記憶を司る海馬部分で灰白質の密度が増加していたそうです。※3
マインドフルネス瞑想の効果や方法は、下記の記事で詳しく取り上げています。是非参考にしてみてください。
関連情報:マインドフルネス瞑想の効果 – 人生が変わる科学的な実証を得た瞑想法
4. ヨガ呼吸法で自律神経を整え、ヨガポーズで姿勢を整える
ヨガはストレス対策として有効であることはよく知られています。
様々な研究結果がありますが、慢性的なストレスが交感神経と副交感神経からなる自律神経のバランスを乱す原因の一つです。また、交感神経と副交感神経は私たちの呼吸と密接に関係していることがわかっており、私たちは意識的なヨガの呼吸法を通じて、自律神経のバランスを取り戻すことができるのです。
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そしてストレスを始めとする様々な不調は、私たちの姿勢とも大きく関わりがあります。
私たちの身体全体を支える背骨は自律神経と脳脊髄神経の経路です。骨盤の歪みなどの姿勢不良は筋肉の緊張を生み、自律神経と脳脊髄神経の神経伝達を阻害する原因ともなります。
これらの姿勢不良がうつ病や睡眠障害などの精神疾患に引き起こすといった見方もあるのです。つまり、心のストレスが身体の不調を生むだけでなく、身体的な姿勢不良が心のストレスをも生むのです。
このような身体のメカニズムを知るとヨガのもう一つの効果に気づきます。それはヨガポーズです。ヨガのポーズは姿勢を整えるために行うもので、ヨガの目的の一つと言ってよいでしょう。
つまり、ストレスに対して身体の姿勢改善からアプローチできるのです。
ヨガはポーズだけではなく、呼吸法と瞑想の3つの要素から成り立っています。ポーズでは姿勢を改善。呼吸法で自律神経のバランスを取り戻せることができ、さらにヨガの瞑想でストレスを低減できるなど、精神的・身体的なアプローチを兼ね備えた総合的なストレス対策として活用できそうです。
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ストレスとうまく付き合う習慣は現代人にとって必要な知恵と術
ストレスは私たちの期待に対して目の前の現実とのギャップ、つまり自然の均衡、バランスの崩れであり、そのギャップが大きければ大きいほど強い感情が生まれます。また、複雑化した現代社会においてストレスそのものを無くすことはできないでしょう。
むしろそれを受け止め、ストレスとうまく付き合うことが現実的な解決策につながるのかもしれません。今回ご紹介したように、ストレスを一概に悪者と考えず、有酸素運動や瞑想、ヨガをする習慣をつくることでストレス耐性は間違いなく強くなるはずです。
そしてこれらの習慣は、ストレスが無くならない世界を上手に渡っていく上で必要な知恵とスキルと言えそうです。
参考・引用元
- ※1 脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方 – ジョン J. レイティ (著)
- ※2 ケリー・マクゴニガル: ストレスと友達になる方法 via TED
- ※3 マインドフル・ワーク「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える – デイヴィッド・ゲレス (著)