呼吸

自律神経の乱れをリセット – 8つのヨガ呼吸法とポーズでセルフケア

便秘に頭痛、イライラなど身体のなんとなくの不調。ストレスからくる自律神経の乱れが原因とわかっていても、私たちが抱える仕事や人間関係の悩みは、そう簡単に解決できるものでありません。そんなあなたに知って欲しいのが、今回解説する2つのヨガの呼吸法と6つのヨガポーズ。これで自律神経の乱れをセルフケア。すっきりとリセットしましょう。

まず、詳しく説明に入る前に、自律神経についておさらいしておきましょう。

なんとなくの不調と自律神経の乱れ

過度なストレスが長引くと、副腎はストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールを分泌し始めます。コルチゾールが長期に渡って分泌されると副腎疲労を起こし、ホルモンバランスが崩れ、自律神経の働きが乱れます。自律神経は循環器、消化器、呼吸器など私たちの身体の様々な臓器を制御しているので自律神経の働きが乱れれば、様々な身体の不調が表れるのです。

また、このストレスは冒頭に挙げたような仕事の疲れや人間関係のストレスのほか、環境変化、昼夜の逆転など生活リズムの乱れ、睡眠不足も関係していますので、思い当たる節がある人は要注意です。


コルチゾール分泌が原因となるストレスのメカニズムについては以下の記事をご参考に。

関連記事:ストレスに負けない心と身体をつくる4つの習慣


なぜ、自律神経は乱れるのか?

自律神経は、交感神経と副交感神経からなることはよく知られています。

交感神経は運動や緊張など活発な状態な時に働く神経。一方の副交感神経は、睡眠や入浴、食事など身体がリラックスしている状態で働きます。

いわば、自律神経はこのような二つの相反する働きでバランスを保っているのです。しかし、長引くストレスは、緊張状態のまま過ごすことになり、交感神経優位がずっと続くことでバランスが乱れるわけです。

自律神経を整えるヨガでセルフケア

自律神経は、私たちの呼吸や内臓の働きを司っており、心臓や内臓が私たちが意識せずとも「自律」的に機能しています。また、自律的に動いているため、意識的に制御できないとも考えられていました。

しかし、最近の研究では呼吸や姿勢を整えることで自律神経を間接的にコントロールできることがわかってきました。そう、呼吸と姿勢といえばヨガ。ヨガを上手に活用することで自律神経の乱れを正常に取り戻すことができるのです。


ヨガ呼吸を通じて自律神経をコントロールする詳細については、以下の記事で詳しく紹介しています。

関連記事:ヨガの呼吸法で自律神経をコントロールできる、その秘密。


ただし、自律神経の乱れは疾患が引き起こしている場合もあります。例えば、自律神経失調症や過敏性腸症候群、神経性胃炎など。これらもストレスが主要な原因の一つとされていますが、このような疾患が発生して自律神経が乱れている場合には、お医者さんに診てもらうことが必要です。

次から自律神経を整える上で有効なヨガテクニックを解説しますが、あくまでも重篤な症状に至らない場合に限った、日常生活で改善できる方法とお考えください。

1. ヨガの呼吸法で副交感神経を高める

ストレス過多で優位になった交感神経を鎮めるには副交感神経の働きを活性させることが大切。副交感神経を優位にするには、深く、ゆっくり時間をとった腹式呼吸を行うと良いことがわかっています。

ヨガの呼吸法は、鼻で息を吸って鼻で吐くのが基本で原則的に腹式呼吸。副交感神経を優位にさせる上で効果を発揮します。数あるヨガ呼吸法の中でも、特に「吐く息を長くする呼吸法」と「片鼻の呼吸法(ナディショーダナ)」がおすすめです。

吐く息を長くする呼吸法

1:2の割合で吐く息を楽に伸ばしていくシンプルな呼吸テクニックです。副交感神経を高め、リラックスできることから不眠症や不安の軽減に効果があると言われています。

片鼻の呼吸法(ナディショーダナ)

鼻呼吸で、右の親指で右鼻を閉じ、人差し指と中指を内側に曲げて片鼻で呼吸を行なっていきます。反対の左鼻も同様に行います。

伝統的な文献には、左鼻腔は月と副交感神経に関係し、いらいらを沈めてくれる。また、右鼻腔は太陽と交感神経に関係し、代謝を活発にするとも。

これらの二つの呼吸法は、ちょっとストレスを感じたらデスクでも、気軽に取り組めますので是非、知っておいてください。「吐く息を長くする呼吸法」と「片鼻の呼吸法(ナディショーダナ)」の手順や方法は「5つのヨガ 呼吸法でマインドのノイズを軽減する」の記事で詳細に解説していますので、詳しく知りたい方はご覧ください。

ヨガにおいて呼吸法が大切なことは、ヨギーニ・ヨギー(ヨガをする女性・男性)なら知らない人はいないでしょう。プラーナーヤーマと呼ばれるように、ヨガにおいて呼吸は全てと言っても過言ではありません。ストレスを感じやすい人でヨガをまだ行ったことがないという方は、ヨガするきっかけになるかもしれません。


ヨガ哲学で定義された呼吸法(プラーナヤーマ)の詳細は以下の記事をご覧ください。

関連記事:八支則4のプラーナヤーマ – 呼吸の力


2. 自律神経の径路である背骨を整えるポーズ

自律神経は脳から背骨を通って私たちの全身に張り巡らされています。そのため、背骨と上半身を支える骨盤に歪みがあると、知らないうちに筋肉の緊張を生み、神経伝達を阻害するとも言われています。自律神経と姿勢は切っても切れない縁で繋がっていると言えるのです。

呼吸法と合わせ、トライしたいのが次の二つのポーズ。

猫のポーズ / キャット&カウ

「猫のポーズ(キャット&カウ)」は、ヨガの初心者クラスでも頻繁に行われていますが、背骨に働きかける上で効果が期待できるポーズです。

背骨を丸める動作から反対に反る動作を交互に行うことで背骨全体を可動させ、歪みを改善していきます。具体的には以下の手順でポーズを行っていきます。

  1. 肩の真下に手首、腰の真下に膝がくるように四つ這いになる。足の甲は寝かせる。
  2. 息を吐きながら尾骨を下に向けて背中を丸め、目線をおへそに向ける。
  3. 息を吸いながら背中をしならせ、胸を開いて顔を正面へ。
  4. 何度か繰り返し、四つん這いに戻る。

ヨガポーズ全てに言えますが、動きに合わせて呼吸を調和させていくことがとても重要。ポーズだけを正しく行えばいいという訳ではありません。動きと呼吸については、以下のヨガポーズガイドで詳細を参照してください。


ヨガポーズガイド:猫のポーズ / キャット&カウ(マルジャリャーサナ)


魚のポーズ

魚のポーズは胸骨を持ち上げ、恥骨から喉までのアーチを湾曲させ、背骨全体を収縮させます。また、左右の肩甲骨を引き寄せ、身体が開くポーズです。首、肩周辺から背中全体の筋肉を使うポーズですので、歪みを正していく上で有効とされています。身体が開く心地よさを感じることができるポーズです。

  1. 脚を伸ばし、仰向けに寝そべる。腕を腰に移動させ、手のひらを臀部の下の床につく。
  2. 前腕を床に押し付け、肘は開かずに上腕と方を上げ、胸を山なりにする。
  3. 前方を見つめ、頭を上げたまま胸のアーチを喉にまで広げていく。
  4. 顎を首から離していき、喉を伸ばす。頭頂を後ろに傾け、肘を広く左右に開いて、頭頂をそっと床につける。腰から思いきり上体を持ち上げ、胸骨を空に向けて押し上げる。
  5. 胸骨を持ち上げ、恥骨から喉までのアーチをさらに湾曲させる。左右の肩甲骨をすり合わせ、方を下げながらさらに胸を上げる。
  6. 両足の内側を押しつけ合う。身体の前部を使って呼吸をしながら、身体が開く心地よさを味わう。
  7. 息を吐きながらゆっくりと元の状態に戻る。

ヨガポーズガイド:魚のポーズ(マッツヤーサナ)


3. 背骨を軸に捻るポーズで内臓をリセット

自律神経は背骨に沿って張り巡らされ、各内臓につながって働きをコントロールしています。そのため、背骨と周辺筋肉の歪みや緊張を捻ることでほぐしていきます。また、ヨガポーズと同時に深い呼吸を繰り返すことで自律神経のバランスが整ってきます。

半分のマッチェンドラのポーズⅠ(アルダマッツェーンドラーサナⅠ)

股関節を閉じる動作(ヒップクロージング)に加えて、腰から上半身を捻ることで骨盤から背骨に働きかけると同時に、腸や内臓を捻り、緊張をほぐしていきます。背骨を丸くせず、骨盤からまっすぐに伸ばすことを忘れないように行います。

  1. 両足を前に伸ばして座る。左膝を曲げ、腿の裏側とふくらはぎを合わせる。左足を右の臀部に近づける。左足のかかとを右の坐骨のすぐ前におく。
  2. 右脚を上げ、左腿の向こう側に渡し、右足を左膝のそばの床につく。左右の坐骨を床に押し付ける。
  3. 息を吐きながら腹部と胸部を右にねじる。胴のの長さは変えずに左肘を右腿の外側に持っていく。腿と肘を互いに押し合って、右側へのねじりを支える。
  4. ウエストの左側を縮めずに、左肘を右膝の外側にずらす。左の脇の下を出来るだけ膝に近づけ、背筋の伸びを保つ。左腕をまっすぐ伸ばし、右脚のつま先に手をおく。右
  5. 息を吸いながら手をほどき、胸を正面に戻す。足を解き、座位の杖のポーズで休んでから、反対側で同様に繰り返す。

ヨガポーズガイド:半分のマッチェンドラのポーズⅠ(アルダマッツェーンドラーサナⅠ)

その他の捻りのポーズ(ツイストポーズ)もありますのでご参考に。

ヨガポーズガイド:ツイストのポーズ一覧(効果とアライメント)


4. インバージョンポーズで内臓をリセット

インバージョンとは、「内臓が逆さ」の意味。重力に逆らうようにすることで普段は下方へ圧がかかっている内臓を逆転させ、位置を調整します。

下向きの顔の犬のポーズ(アドームカシュヴァーナーサナ)

これもポピュラーなポーズですよね。下向きの顔の犬のポーズは様々な効果が期待できるポーズです。

股関節を軸に上半身を屈曲させ、両手を地面につき、肩甲骨周辺の筋肉から背骨をまっすぐに伸ばします。そして下半身もハムストリングからアキレス腱までの伸びなど、身体全体に働きかけることができます。

また、上半身が逆さになるポーズでもあるので、内臓の位置の調整もできます。姿勢改善から自律神経の調整まで可能な万能なポーズと言えます。

  1. 顔を伏せてうつ伏せになる。両手を指先が前方を指すようにして胸の横におく。
  2. 息を吐きながら床から上体を上げていく。手を伸ばし、頭を足の方向に引きつけ、頭頂部を床につける。肘と背中は伸ばしきったまま。膝の裏をのばしたままに保ち、かかと、足の裏は床から離さない。
  3. 息を吐きながら頭を床から持ち上げ、上体を前方に伸ばすようにしてゆっくりと床に身体を下ろし、休む。

ヨガポーズガイド:下向きの顔の犬のポーズ(アドームカシュヴァーナーサナ)


鋤(すき)のポーズ(ハラーサナ)

もう一つインバージョンポーズをご紹介。

少し難しいポーズですが、鋤のポーズは頭の方への血が制御されているので、神経を鎮め、頭痛を緩和するといわれています。苛立ち、短気、不眠症など自律神経の乱れに関連する症状に効果があるとされています。また、背骨が伸ばしながら身体を上下にすることで、腸の働きが活発になり便秘の改善に役立つとも。

  1. 両足を伸ばして仰向けに寝る。手のひらを下向きにして超手を床の上におく。息を吐きながら膝を曲げ、手前に引き寄せ、腿を下腹部につける。
  2. 息を吐きながら尻を持ち上げ、両手を曲げて尻にあてる。息を吐きながら両手で上体を持ち上げ、床と垂直にし、胸を顎につける。後頭部と首、肩、上腕部のみを床につける。両手を背骨の中央部にあてる。
  3. 顎をゆるめ、上体を少し下げ、両手、両足を頭の方に伸ばす。足先を床につける。腿の裏、膝の腱を、股中央に向かって引き上げるようにして膝をさらに伸ばし、上体を上げる。
  4. 手と足を反対方向に移動し、床の上でまっすぐ伸ばす。両親指を互いに引っ掛けあい、手と足を伸ばす。両手を組み、手首を返し、手の平を上向きにする。
  5. 足と手はお互いに反対方向にまっすぐ伸ばす。こうすると背中が十分伸びる。手の組み方を変えて再び行う。例えば最初に右の親指を下にした場合、次に左親指を下にして同じ時間だけ行う。
  6. 手を離し、足を上げ、サルワーンガアサナに戻り、ゆっくりと床におろす。仰向けになり休む。

ヨガポーズガイド:鋤(すき)のポーズ(ハラーサナ)

内臓の調整から自律神経を調整する上で、その他のインバージョンポーズも役に立ちますので、ご参考に。

ヨガポーズガイド:インバージョンのポーズ一覧(効果とアライメント)


5. 夜にヨガを行うことで睡眠の質を高める

呼吸法はいつでもできますが、自律神経をリセットする目的でヨガを行うなら夜に行うのがおすすめ。なぜなら自律神経の乱れは、時間の昼夜逆転による概日リズム(サーカディアンリズム)の崩れに関係していることからわかる通り、睡眠と密接な関わりがあるのです。


概日リズム(サーカディアンリズム)の崩れと睡眠の関係は以下の記事をご参考に。

関連記事:睡眠不足がもたらす6つの健康リスク – 肥満から肌老化、生活習慣病まで


睡眠不足は夜になっても交感神経が優位になっており入眠が阻害されるから。だからこそ副交感神経を高める必要があるのです。尚、サーカディアンリズムを整える上では、朝の早い時間に日の光を浴びることも重要です。

スムースな入眠には、最後に「究極のリラックスポーズ」と呼ばれるこのポーズで締めくくりましょう。

屍のポーズ / 亡骸のポーズ(シャバーサナ)

シャバーサナは最後に行うことが多いですよね。これにはしっかりとした理由があります。

それまで行なったヨガポーズで骨格と筋肉は緊張を感じています。そして最後にシャバーサナで深い呼吸を行いながら重力に身をまかせます。その時、身体が大地に溶けて沈みこんでいく感覚を味わうことで、身体に弛緩を与え、深いリラクゼーションを得るのです。

シャバーサナは極上のリラックスを与え、あなたは質の高い睡眠を得られます。

  1. 仰向けで死体のように寝る。両手は手のひらを上向きにし、腿から少し上の方の床におく。
  2. 目を閉じる。もしできたら、黒い布で目を覆う。両かかとをそろえ、足先は自然に離す。
  3. できるだけ深い呼吸をする。この呼吸を続けると、呼吸は次第に深くゆっくりになる。
  4. 完全にくつろぎ、息をゆっくりと吐き切る。

ヨガポーズガイド:屍のポーズ / 亡骸のポーズ(シャバーサナ)

関連記事:シャバーサナ- 毎日15分で心と身体に究極のリラックスを与える方法


ストレスはゼロにできないからこそセルフケアできる術を知っておく

残念ながら、ストレスをゼロにすることは難しい。であれば身体のことを知り、セルフケアの術としてヨガを上手に使うことが、心身の健康を維持する上での鍵なのです。ヨガスタジオでのレッスンに慣れてきたら、是非自宅やオフィスでも積極的にヨガを取り入れてみてください。

ヨガポーズによって全身をストレッチすることで硬い体をほぐし、腰痛や肩こりなどを解消することはよく知られています。しかし今回見てきた通り、ヨガは姿勢や内臓の調子を整えながらも、自律神経の乱れをリセットできる万能な術です。呼吸法なら会社のオフィスでもどこでも使えますし、自宅に帰って一日をリセットする為にもヨガポーズを取り入れることを習慣にしてみてください。

ストレスに無理に立ち向かうのではなく、しなやかに受け流すことができるのがヨガなのです。

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Yu Staff

最初はサーフィンのために始めたヨガですが、ヨガから、ワークアウトや食事、呼吸法、瞑想など、もっぱら人間の脳、身体と心の繋がりへの興味が尽きない。最近はビジネス書よりもこれらをテーマにしたノンフィクションばかり読んでいます。