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運動で脳細胞は増える – 最新科学が解き明かす脳を鍛える方法

脳細胞(ニューロン)は後天的に増えず加齢に伴い減っていく。という常識はもはや過去のもの。脳細胞は運動すれば増大し、学習や認知能力を高めるだけでなく精神疾患をも緩和すると主張するのはハーバード大学医学部のジョン・J・レイティ博士。著書「脳を鍛えるには運動しかない!」から最新科学に裏付けされた脳細胞を増やす方法をご紹介します。

学業の成績を左右する要因として「学校が生徒一人にかける費用の高さ」であることを疑う人はいないでしょう。これは主要な要因の一つと言えますが、どうも単純に費用をかければ良いというものではないようです。

学業成績を向上させる方法は「お金だけでない」

生徒一人にかける費用が、同じ州の公立校よりもかなり低いネパーヴィル203学区は、勉強以外のある事をすることで、なぜか学業成績が常に州のトップ10に入っています。また、驚くことに数学と理科の知識レベルを国際比較するテスト、TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)で、理科において世界1位、数学は世界6位になった(1999年)と言います。

ネパーヴィル203学区は有名私立ではなく公立校として、さらに生徒一人あたりの費用が大きくないにもかかわらず、なぜ、このような成績を維持できているのでしょうか?

それは0時限体育と呼ばれる独自の「運動プログラム」です。心拍数に着目した有酸素運動で、運動と学業成績の間に明確に相関関係があることが明らかになっています。

学習の間、脳内で起こっていること

そもそも私たちが学習する間、脳はどのように働いてるのでしょうか?

例えば英語など第二言語を学ぶ、新しい土地の慣習になれる、またはサーフボードの上でバランスをとる方法を学ぶなど、何か新しいことを学ぶ度に、脳の世界では脳細胞(ニューロン)同士が新しく結びつきます。

私たちが学習したこと、行動、思考、感情は全てニューロンのつながり方によって決まります。そして学んだことをもとに行動した経験や結果は、またニューロンのつながり方にフィードバックされ、常に新しい形に変化していきます。これは、脳の可塑性(かそせい)と呼ばれ、脳が情報(信号)によって柔軟につながり方を変化していくことを言います。

そして、あることを繰り返し学ぶことで、ニューロン同士の結びつきも強化されるのです。

脳の新常識 – ニューロンは後天的に増やすことができる

これら学習の間に活性するニューロンですが、それまでの常識として「脳の神経細胞(ニューロン)の数は生まれたときから既に決まっており、加齢とともに減っていく」との考え方が支配的でした。

しかし、最近の神経科学の分野で、体と脳、心が生物学的につながっていることを示す重要な発見が相次いでいます。そこからわかってきたのが、ニューロンは「後天的に増やせる」こと。そして冒頭のネパーヴィル203学区の例に見たように、ニューロンを増やす方法の一つが運動だったのです。

しかし、運動は直接的には体を鍛えるもの。それが脳にどのように影響するのか?

運動はニューロンや脳に栄養を送る血管の形成を促す物質、脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質の分泌を促進します。さらにニューロンを増やすだけにとどまらず、学習や認知能力を高める神経結合をも増やすそうです。

脳細胞を増やす効果的な運動の条件

1. 心拍数を基準に運動強度を測る

最大心拍数は年齢によって異なります。心拍数 220から年齢を引いた数字が理論上の最大心拍数となります。例えばあなたが30歳であれば、190(220-30)。40歳であれば175(220-40)です。

あなたの年齢から最大心拍数を求めたら、次のような運動強度と頻度で運動することが推奨されています。

2. 運動強度中程度のジョギングを中心に高程度のランニングを

運動強度は、最大心拍数の割合から求めます。

  • 低強度の運動は、最大心拍数の55%〜65%(ウォーキングに相当)
  • 中強度の運動は、最大心拍数の65%〜75%(ジョギングに相当)
  • 高強度の運動は、最大心拍数の75%〜90%(ランニングに相当)

本書では上記のような定義がされていましたが、心拍計を持参できれば心拍を常にチェックできます。エアロバイク、水泳、サイクリング、エアロビクスなど、他の有酸素運動でも可能でしょう。

3. 週に6日、45分〜60分

週に6日、有酸素運動を45分〜60分行います。そのうち、4日間は中強度で長めに実施し、残りの2日間は強度で短めに行います。なかなかの条件ですが何よりも習慣化が必要そうです。

なお、ジョン J. レイティ博士は本書以外のインタビューで、有酸素運動以外で、ヨガ、空手の型などの例をあげ、体を動かしながら頭も使うような運動にも効果があると答えています。※1

有酸素運動とあわせ、コンディションと相談しながら自分の姿勢を意識するヨガを取り入れてみてください。

4. 学習を行う前、朝などがオススメ

言うまでもありませんが、運動だけで学業成績はあがりません。運動は学習の脳内環境を整える役目であり、勉強はその上で必要になることを忘れてはいけません。

その意味で学習や何かを考える前の、特に朝などは推奨されています。

まだある、運動で脳を鍛える効果

本著では、上記以外にも様々な効果が紹介されています。

例えば、BDNFは、思考や感情に関わる重要な神経伝達物質であるセロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンの分泌を増やすこと。運動は、セロトニンの不足が関係すると見れられるストレス、不安、うつ病、注意欠陥障害などの精神疾患へ効果があることを詳述しています。

生活習慣病を予防する上で運動が必要であることに疑いようもありません。本書はそれに加えて、認知症予防や記憶力の向上、精神疾患の緩和にも効果があることを証明しているのです。

真の健康は体、心、脳のバランスが整うこと

これまでTULAでは「姿勢とストレス」といった、体と心のつながりについていくつか記事を紹介しています。本書は体と心の間に脳が介在し、密接につながっていることを科学的に示しているとも言え、実に刺激的な内容になっています。

また、ジョン・J・レイティ博士は本著の後に、「GO WILD 野生の体を取り戻せ! ―科学が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス」を執筆しています。(書籍レビューはこちら)この著作では狩猟採集民族の生活習慣にヒントを得て、科学的に食事、運動、睡眠などの原則についてまとめています。脳についてはマインドフルネス瞑想を取り上げるなど、やはり体と心、脳のつながりが全体的なテーマとなった深い内容となっています。

本記事に少しでも興味を持つ方は是非ともジョン J. レイティ博士の著書を手にとってみてください。

参考・引用元

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Yu Staff

最初はサーフィンのために始めたヨガですが、ヨガから、ワークアウトや食事、呼吸法、瞑想など、もっぱら人間の脳、身体と心の繋がりへの興味が尽きない。最近はビジネス書よりもこれらをテーマにしたノンフィクションばかり読んでいます。