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パワーポーズ – 身体から心のアプローチで本当の自分を取り戻そう

大事な場面で本当の自分が出せない。このような経験は誰でもあるはずです。そんな時は「ある感情を感じているフリをしていれば、実際にそう感じるようになる」と月並みな言葉をかけられたことはありませんか?実はこれ間違いではないそうです。ハーバード大学の社会心理学者、エイミー・カディ博士の著作「<パワーポーズ>が最高の自分を創る」から本当の自分を取り戻す術をご紹介します。

ビジネスパーソンなら採用面接、または大事なお客様へのプレゼンテーション、起業家であれば投資家へのエレベーターピッチ…。

私たちは、こうした大事な場面でプレッシャーを感じると、不安や恐怖を感じ、本当の自分を出せないまま終わってしまうことがあります。後から振り返って「ああ言えば良かった。」「言い出すタイミングを間違えた。」と反省ばかり。そして自信を失っていくという悪循環に陥ります。

このような状況は、誰でも一度や二度、経験したことがあるでしょう。

反対に“本当の自分”が出せている時、私たちはパワーを感じます。偽りのない自分をありのままに表現でき、挑戦する意欲も高く、何事も上手くいっている状態。いわば「最高の自分」、この状態こそ本著のメインテーマであり、ハーバード大学の社会心理学者 エイミー・カディ博士が言う「プレゼンス(存在)」です。

自分を信じ、本当の自分が出せる。そしてそれが他人にも情熱として伝わり、すべてが上手くいく状態である「プレゼンス」。カディ博士の著書「<パワーポーズ>が最高の自分を創る」は、プレゼンスを科学的に検証し、その結果から、私たちがいつでも最高の自分になるための術を教えてくれています。

カディ博士が行ったTEDの講演は大変人気を博したタイトルですから、上記を見ると知っている人も多いかもしれません。

最高の自分 – プレゼンスは自分のすべての感覚が同調した時に発揮される

カディ博士の言うプレゼンスは単に自信ということではなくもう少し広い概念。「真の自分」は、自身の様々な側面、感情、思考、表情、しぐさ、行動などが一致した状態でこそ発揮されると言います。

これは納得がいく指摘です。自分の価値観とは異なる考え方に同調する場合、例えば、そうは思わないけど、皆に流されて同調するなどは後味が悪いものです。この違和感はその行動と自分の価値観にギャップがあり、自分に忠実ではないと無意識に感じるからでしょう。

また、嘘を話さないまでも自分に忠実ではなく、どこか本当の気持ちを隠して話していれば、しぐさや表情に現れます。言語行動(話すこと)と非言語行動(しぐさや表情)にズレが生じ、自身の同調性が失われてしまうのです。

プレゼンスは、自分の全ての感覚が一致し、同調した時(シンクロニシティー)にこそ発揮されるわけですから、まずは自分をよく知る、ということは大前提なわけです。

プレゼンスはパワーであり、パワーはプレゼンスそのもの

何事も上手くいっている、と言い切る人のほうが少ないと思いますが、私たちは、日常の中で嫌な出来事に出会い、挫折やショックを受ける時があります。こうした不安や無力感は自信や意欲の喪失となり、目で見える形で現れます。

不安が不安を呼び、チャンスを脅威と感じたり、疲弊の悪循環がめぐって自分の状況をコントロールできない状態に陥ります。

実際、社会心理学では、パワーがない状態では心理面だけでなく行動面も抑制システムが働くことを明らかにしています。反対にパワーがあれば私たちは自由で、状況を自分でコントロールできており、脅威よりも機会に反応し、前向きに楽観的に行動するそうです。

つまり、パワーは私たちの思考や感情、行動、生理機能を左右し、私たちのパフォーマンスにまで影響を与えているのです。カディ博士曰く、つまり、「プレゼンスとはある意味パワー」であり、「パワーを失っていれば本来の自分は発揮できない」そう。

心が身体に作用するように身体も心に作用する

カディ博士は、プレゼンスとパワーは誰でも得られることを唱えるために、アメリカ心理学の父と呼ばれる心理学者であり哲学者のウィリアム・ジェームス(1842〜1920)から以下のような引用をしています。

幸せだから歌うのではない。歌うから幸せなのだ。- ウィリアム・ジェームス(1842〜1920)

この主張は、無力感や不安感があるから背中を丸める、ということではなく、身体的経験が感情を引き起こすという考え。実際にウィリアム・ジェームスの説を裏付ける多くの実験が行われ、感情は感情行動と身体的反応の原因ではなく、結果であることは結論付けられています。

つまり、歌っていれば楽しくなる、泣いていれば本当に悲しくなっていく…。ある感情を感じているフリをしているうちに、実際にそう感じるようになる、ということ。

これは私たちを勇気付けてくれます。身体の反応から私たちは憂鬱な気分を吹き飛ばすことができたり、自信を取り戻せるということですから。

参考記事:憂鬱な気分を即解消!ヨガ未経験でもできる効果的な4つのポーズ

身体からパワーを取り戻す – PTS患者とヨガの例

カディ博士は、実際にパワーを取り戻す例として、本著で心的外傷後ストレス(PTS)患者が行ったヨガの実験結果について触れています。

長らくPTSに対する心理療法は、トラウマは心の中に存在すると考えられ「思考が行動を引き起こす」といった視点に立脚した認知行動療法が行われています。具体的には辛い体験を暴露し、それを受け止め、慣れさせていくアプローチ。

2012年、スタンフォード大学ではイラクとアフガニスタンの戦闘に参加した元米軍兵士のPTS患者21名を対象として身体から心に働きかける手法としてヨガを選択し、その効果を検証する実験が行われました。

参加者のうち11名を無作為に選び、スダルシャンクリヤ呼吸法を取り入れたヨガプログラムを毎日3時間、七日間連続で受けさせました。するとヨガを実践した一ヶ月後、PTSへの抵抗力を示す値は下がっていたそうです。また驚くことに1週間のヨガプログラムをうけただけで、その効果は、1年後もPTSの症状や不安が劇的に軽減された状態が続いていたそうです。

この実験結果が示すのは、PTS患者に対するヨガの効果が高いということはもちろん、身体から心へアプローチできるということです。

プレゼンスと身体をつなぐホルモン – テストステロンとコルチゾール

プレゼンスはパワーであり、身体から心にアプローチできることがわかってきましたが、その間で私たちの身体の中で何が起きているのでしょうか?本著ではプレゼンスが発揮される際のホルモンの状態についても詳しく解説があります。

それは、自信のホルモン、支配性のホルモンと呼ばれるテストステロン。そしてもう一つがストレスが高まると分泌されるコルチゾールです。

参考記事:ストレスに負けない心と身体をつくる4つの習慣

スタンフォード大学が行ったパワーとストレスの関係を明らかにする調査(2012年)から、支配的地位の高い多くのリーダーは、総じてテストステロンが高く、コルチゾールが低いことが明らかになっています。

カディ博士は、「テストステロンが自信に裏打ちされた自己表現と行動を促進し、コルチゾールの低い状態が困難な場面で失敗しそうなストレス要因から守ってくれる」、理想的な状態であると言っています。つまり、プレゼンスが発揮できている時、パワーを感じている時、私たちは二つのホルモンが理想の状態となっているわけです。

また、カディ博士は2004年に行われた、ポピュラーなヨガポーズである、コブラのポーズがこの二つのホルモンにどう作用したのかを調査する実験を紹介しています。

この研究では被験者がコブラのポーズをとる前後の唾液を採取したところ、全員、テストステロンが高まり、コルチゾールが下がったそうです。(テストステロンの上昇率は平均16%、コルチゾールの減少率は平均11%。)

パワーポーズを2分とれば最高の自分になれる

そして本著のハイライトが、パワーポーズ。
以下のような簡単なポーズを2分間とるだけで、テストステロンが高まり、コルチゾールが下がるといったもので、先に紹介したコブラのポーズよりも高い上昇率と減少率が実験で明らかになったといいます。

Image by Amy Cuddy, Harvard University

これらのポーズはどこでもとれます。例えば、デスクや大事な会議の前であれば廊下。それでも人目が気になるのであればトイレの中でもとれますね。

カディ博士が示してくれた内容で何よりも希望が持てるのが、これらポーズが、日常によくある現実的な悩みに対しても使えるということではないでしょうか。テストステロンが高く、コルチゾールが低い状態は社会的に地位が高くなくとも得られる可能性があるということです。

ただしパワーポーズの効果は反証も出ている

と、ここまで紹介してきたものの、2015年になり、Ranehill et alらによりパワーポーズの再現実験が実施されました。その結果、ホルモンの変化は見られず再現できないという反証が出ていることは伝えなければなりません。※1

カディ博士も反論を展開してるようですが、パワーポーズの効果を示す科学的な根拠については疑問符がついたままとなっています。

とはいえ本著が示す、プレゼンスが自分の様々な側面が同期して発揮されること、プレゼンスがパワーを生み、ポジシティブな行動変容をもたらすこと、さらに心が身体に作用するとともに、身体も心に作用することなど、内容全般については示唆に富むものであることは間違いありません。

再現実験を含む世界中の科学者の様々な検証が、これまで別々に語られてきた、心と身体、脳のつながりについて研究が進むことを是非とも期待したいものです。

参考元

Yu Staff

最初はサーフィンのために始めたヨガですが、ヨガから、ワークアウトや食事、呼吸法、瞑想など、もっぱら人間の脳、身体と心の繋がりへの興味が尽きない。最近はビジネス書よりもこれらをテーマにしたノンフィクションばかり読んでいます。