ヨガ

八支則3のアーサナ – “動く瞑想”と言われるアーサナの真実

八支則も3番目のアーサナに。普段、当たり前すぎてアーサナについて考えることもあまりありません。呼吸法や瞑想の間でアーサナは何を意味しているのでしょう? パタンジャリがヨーガ・スートラの八支則で説くアーサナを今一度見ながらアーサナの本当の姿を紐解きます。

八支則の1段階目のヤマ Yama(禁戒)から2段階目のニヤマ Niyama(勧戒)までが、日常生活における、自分自身や自分の周りに対する心得だとすると、3段階目である「アーサナ」から、徐々に意識を自分の内側に向けていく、本格的な“行”に入っていくと伝えられています。

“行”というと難しく聞こえるかもしれませんが、これは八支則の冒頭でもお伝えしたように、忘れてしまっていた本来の自分の姿を、ゆっくりと時間をかけて思い出していく過程であり、本来の自分を取り戻していくということです。

ですので、アーサナを行うときに、自分の体の状態や感覚の変化を客観的に観察していくと、新たな発見があるかもしれません。

アーサナの歴史 – 人生を生きるための肉体のメンテナンス

アーサナを理解する上でヨガの歴史から紐解きましょう。

“ユジュ”という語源からきているヨガは、“繫ぐ、結ぶ”という意味があり、よく、牛馬の”くびき”に例え、説明されています。絶えず忙しく動き回り、なかなか捕らえることができない牛馬の性質が、私たちの心と同じような動きをすることから、人の心や意識を牛馬に、そして肉体を荷台として喩えられます。

“くびき”がなければ、意識や欲が好き勝手にあちこちに行ってしまいます。”くびき”でしっかりと心と身体を結ぶことでマインドを一点に集中させるのです。どんな道具でも、メンテナンスをしなければ本来の機能を発揮できませんよね。その意味でアーサナは、人生を生き抜くための“肉体”という乗り物のメンテナンスだとも言われています。

アーサナは、サンスクリット語の「アース:座る」からきているもので、本来のヨガは坐法で行う瞑想のみでした。つまり、瞑想のための坐法のことを、「アーサナ」と呼んでいたのです。ところが、古来から何年もヨガが語り継がれていくうちに、瞑想をしていくにはもう少し(例えば)背骨を整えた方がいいな、腰を安定させた方がいいな、そうするためにはどんな準備をしておけばいいのだろう、と、実体験で様々に研究され、やがて、ポーズをとりながら身体をメンテナンスするという、アーサナが多く生まれました。

そして同時期に、1つのポーズをしっかりととる流派、「ハタ・ヨーガ」が生まれたのです。ですので、現在では坐法だけではなく、ヨガのポーズのことを総称して、「アーサナ」と指すことが一般的です。

「ヨーガ・スートラ」の八支則に見るアーサナの本来の目的

現在は、主にハタ・ヨーガを行っているスタジオが多いのですが、上記の歴史からもわかるように、ハタ・ヨーガには、アーサナをとることから心を見る、身体を見る、という目的が根底にあります。

この伝統的なハタ・ヨーガからは、難しいポーズもたくさん生まれてきましたが、「ヨーガスートラ」の中では、「座法(アーサナ)は常に安定していて、快適なものでなくてはならない」(Ⅱ−4)と説明されています。安定かつ快適なアーサナをとることで、心、身体の状態をより知ることを重視しているのでしょう。

昨日までの自分との違いや、今の心身の状態を知ることが、本来の「ハタ・ヨーガ」の目的なのです。

難しいアーサナ(ポーズ)に固執する必要はない

また、同時に言えることは、難しいアーサナを無理にとる必要はないということ。極端な話、毎日とるアーサナは、ただ1つでも構わないのです。あくまでも安定し、快適な状態の中から自分の心身を観察することが目的ですから、難易度の高いアーサナができないからといってヨガ初心者とかラベルを貼ることは正しくありません。

もちろん、ヨガを経験していくうちに、あの人みたいにかっこいいアーサナをとってみたい!と思うことは自然なこと。徐々に挑戦していけばよいのです。何よりも難しいアーサナを無理やり練習して身体を痛めた、というエピソードもよく聞きます。これでは本末転倒なわけです。

アーサナを数多く覚え、習得することが目的ではなく、毎日、同じアーサナでも構いません。1つ1つのポーズで、自分とゆっくりと向き合い、観察することを継続するのです。

アーサナとは”動く瞑想”

八支則3のアーサナは単純な坐法でしかありません。しかし、現代ではバリエーションを含めて多くのアーサナが考案されていたりと、現在のアーサナは随分と乖離したようにも見えます。現代のヨガのポーズに対する見方は、身体の動きがあるが故、エクササイズのような印象が先行しているようです。

もちろん、正しい知識に基づいた正しいアーサナであることが前提の話ですが、アーサナを日常生活の中で規則的に行うと、筋肉、骨格、内臓器官を調節したり、身体的な良い効果をもたらしてくれます。

しかし、今回お伝えした通り、アーサナの本来の目的は心身の観察。そして八支則3以降を読み進めると単純なエクササイズではないということがわかります。別の記事でも解説していますが、アーサナはゆっくりとした呼吸を行い、動きながら、“瞑想状態”を築いていくことなのです。この、動きながらの“瞑想状態”で身体だけでなく心の安定をもたらし、性格や習慣、思考などにおいても、大きな影響を及ぼしてくれます。

ヨガを長く経験している人であれば、アーサナをとりながら、徐々に瞑想状態を築かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、普段、何気なくヨガをしている方の中には、意識されたことがなかったことかもしれません。この“動く瞑想”というキーワードを意識するだけで、あなたのヨガがレベルアップするかもしれません。

動く瞑想で、自己の内観をどのようなステップで進めていくかは、こちらの記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

ヨガの八支則とは? – あなたの日常に平穏と至福をもたらす大切な哲学

八支則はヨガを実践するうえで大切な哲学です。古典であるがゆえ、そのまま現代に当てはめて考えるのも無理がありますが、私たちの日常に取り込めるエッセンスがたくさん詰まっています。

八支則1のヤマ – うまくいかない時にこそ思い返したい5つの心得

八支則のヤマは、やってはいけない禁戒を定めたもの。道徳的な5つの心得です。現代社会でこれらを守ることは難しいかもしれませんが、解釈によってとても大切な考えであることにも気づけます。

八支則2のニヤマ – 豊かな人生を歩む時忘れない5つのルール

八支則のニヤマはヨガを実践していく上での行動指針。しかし、読み進めていくと現代の私たちに大切な示唆を与えてくれています。誰でも夢や目標は持つべきです。しかし、一歩間違えれば執着と欲望が生まれることも。夢と欲望、その境目は一体どこなのか?ニヤマにその答えがあるかもしれません。

八支則3のアーサナ – “動く瞑想”と言われるアーサナの真実

普段、当たり前すぎてアーサナについて考えることもあまりありません。呼吸法や瞑想の間でアーサナは何を意味しているのでしょう? パタンジャリがヨーガ・スートラの八支則で説くアーサナを今一度見ながらアーサナの本当の姿を紐解きます。

八支則4のプラーナヤーマ – 呼吸の力

八支則4のプラーナヤーマは、呼吸法や調気法と呼ばれています。私たちの内臓器官はほとんど意識することができませんが、肺だけは意識できることに気づきます。呼吸を通じて自分の心身のバランスを整える術がある。このことがプラーナヤーマの大切さを気づかせてくれるのです。

八支則5〜8 – ヨガで変化した日常の光景

ヨガの八支則も最終段階です。八支則は至福をもたらす8つの段階、プロセスとしてヨガを支える大切な哲学です。今回は八支則5から8をそれぞれ見ていきます。正直にヨガの言う悟りはわかりませんが、ヨガを深めてきた過程で得られた人生の変化についても触れています。

早坂 理恵

早坂理恵 | Rie Hayasaka / Mangala Arati。女優。8歳でデビュー。演技の勉強を始めて間も無く、NHK朝の連続テレビ小説のキャストに選ばれる。18歳で上京し数々の現場で経験を積む中、持病である心臓の病と比較的新しい「脳脊髄液減少症」を発症。芸能活動を休止。現在、復帰したものの今もなお治療中。プライベートではヨガをライフワークとし、水素美容分野での活動(「水素美容のひみつ」著者)。全米ヨガアライアンス RYT500, RPYT(マタニティヨガ), RCYT(キッズ), シニアヨガインストラクター / アシュタンガヨガインストラクター / フィジカルトレーニングインストラクター / Yoga Ed. PI1・PI2修了 Yoga Ed. エデュケーター / 国際食学士 / マクロビオティックセラピスト / アーユルヴェーダベーシック / アンチエイジングアドバイザー / 健康美肌指導士 / 美肌食マイスター など複数の資格を有すなど、心と身体の真の健康をテーマに活動を行っている。