八支則のニヤマはヨガを実践していく上での行動指針。しかし、読み進めていくと現代の私たちに大切な示唆を与えてくれています。誰でも夢や目標は持つべきです。しかし、一歩間違えれば執着と欲望が生まれることも。夢と欲望、その境目は一体どこなのか?ニヤマにその答えがあるかもしれません。
ヨーガの代表的な教典、「ヨーガスートラ」を著したパタンジャリ氏は、八支則の中の2番目、ニヤマにて日常生活の中で推奨される5つの行いを挙げています。
現代にも通じる八支則 ニヤマのルール
この5つは、日常の行動や振る舞いなど、自分自身に向き合いながら、積極的に行うべきとする、ルールや規律というとわかりやすいでしょう。
これまでご紹介してきた通り、「ヨーガスートラ」は、もちろんヨガを進めるにあたっての段階であり哲学です。しかし、読んでいただくとわかるかもしれませんが、どれもこれも私たちの生活に置き換えることができるもの。ぜひ、実践していきたいものです。
八支則 – ニヤマ(Niyama)/ 勧戒
それでは、八支則、ニヤマを具体的に紹介していきます。
1. シャウチャ(Shaucha)/ 清浄
自分自身の内側と外側(体と心)を常に清潔に保つ。身体や周囲の環境が清潔であることに加え、飲食物への考え方も清らかであること。ネガティブな感情と思考を排除すること。
ヨガにおいては、古くから身を清潔にしてからアーサナをとることとされてきましたが、やはり汗でベトベトのままポーズをとっても、なんだか気持ちがスッキリしませんよね。シャワーを浴びたり、衣類を着替えるなど、身を清潔にするだけではなく、日々の生活の中で、思考や心も清潔に保つ、というルールです。
2. サントーシャ(Santosha)/ 知足
知足、つまり、「足るを知る」とは、満足する心を意味します。必要以上の贅沢をせず、自分のまわりにあるもの、例えば置かれている状況、環境、人間関係、自分の能力など、今自分が持っているものの価値を認め、それに満ち足りるための心得です。
逆に、自分が持っていないものに対しても、羨む気持ちや妬む気持ちではなく、平常心で臨むことを諭しています。満足しているときは、自己重要感に満たされ、他人からどう思われても、何を言われても気になりません。また、自分が満足していれば、やがて周りにも無償の愛を与えることができるのです。
足ることを知り、自分に与えられた環境に感謝し、満たされていることに気づくこと。思わしくない状況に陥っても、不平不満を漏らさないこと。これがなければ、欲望や執着を生むということですから、私たちの心のバランスを保つ上での鍵なのかもしれません。
3. タパス(Tapas)/ 苦行、自制
もともとは「焼く」という意味が語源です。心を強くする目的で、日々、強い決意と火のような気合いを胸に抱け、という教えです。他の教えと同様に、自制と持続性が求められます。
困難なことや自分に不都合な状況や苦痛な状況も、受け入れる強さを培うこと。ただし、自分をただ単に痛めつけるものを我慢することではありません。苦しい状況に陥ったときに、受け入れられるような人間に成長することを目的として実践する教えです。
私たちの生活で人によっては大きな夢や希望を持ち、そこに努力するという中でイメージしやすいですね。しかし、自分に対する小さな約束を継続的にコツコツ守る、ということも含まれているように感じています。意外と難しいですものね。
4. スヴァディアーヤ(Svadhyaya)/ 読誦
自己を発見するための自習の勧めです。常に外部の知識を学び続ける姿勢を持ち、生命の智慧に対する理解と学習に努めることにより、自分自身をより深く理解しようとすることです。
心によい影響を与えたり、自分の心をよい方向に導いてくれる書物を読み、人格を成長させていくということです。知りたいことを探求する好奇心、これこそが日々の原動力になると解釈すると理解しやすいですね。
5. イシュワラ・プラニダーナ(Ishvarapranidhana)/ 祈念、信仰
万物に対して、感謝の気持ちや献身的な心を持って生きようとすること。自分ではどうすることもできないこと(自然の力、時代の変化など)に対しても、受け入れ、身を委ね、自然と共存しましょう、という意味が含まれます。
物事への意欲を持ちながらも執着しない、サントーシャ、知足が鍵
八支則のニヤマは、現代にも通じる行動指針として私たちに大切な示唆を与えてくれています。
1のシャウチャ(Shaucha)/ 清浄は、何事にも向かう前に自分の心身を清くという土台を意味しているのでは。心身が清くなければ物事を受け入れる際、様々なバイアスがかかってしまい、客観的に判断ができません。
2のサントーシャ(Santosha)/ 知足は、3のタパス(Tapas)/ 苦行、自制と4のスヴァディアーヤ(Svadhyaya)/ 読誦を行う前に、理解しておかなければならない大切な考え方だと思えます。というのは、3のタパスは、何かへ向かう際の忍耐をイメージさせます。そして、4のスヴァディアーヤも自分の成長を意識し、何事にも好奇心を持って情報を欲する姿勢を言っていますね。
この二つは、どちらかというと、夢や希望などへ向かう過程での指針と言えます。しかし、願望と欲望が前提となる話です。つまり願望や意欲を持ちながらも執着はするな、とのことですが、一見これは矛盾しているようにも思えるのです。
しかし、2のサントーシャの「足るを知る」がこれらにバランスをもたらしていると私は解釈しています。この二つ、スヴァディアーヤとイシュワラ・プラニダーナが過ぎた場合、執着や他人に対する否定が生まれるのではないかと思うのです。しかし、タパスはこの執着を防ぐ意味合いがあるのだと思えるのです。
バランスが崩れると変なことになってしまうのです。このバランスをもたらすのが、タパスなのではないでしょうか。
何事もバランスが大切と気づかせてくれる八支則のニヤマ
夢や希望はとてもいいことですし、間違いなく生きる原動力となります。しかし、それを間違うとどうなるのでしょうか?極端な話、他人を犠牲にしてまで夢を実現したとしても、人間として、道徳として、賛成できない人は多いでしょう。
では、その境目は何なのでしょう?
それが、「足るを知る」ということではないでしょうか?何事も偏ってはいけない、バランスが大切なのです。八支則のニヤマは私たちにバランスをもたらす知恵を提供してくれているのだと思うのです。
そして、5のイシュワラ・プラニダーナ(Ishvarapranidhana)/ 祈念、信仰は、私たちが一人では生きていけないこと、小さな存在であることを気づかせてくれるのです。つまり、謙虚でいること、過信を防いでくれているのだと感じます。
あくまでも私の解釈ですが、ニヤマを読めば読むほど、大切にしたい生き方と思えるのです。
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