リシケシには多くのアシュラムがありますが、そもそもアシュラムってどんなところ?私たちヨガをする日本人でもその中で何が行われているのかよくわかりません。今回は、世界的に有名なシヴァナンダアシュラムを訪問。施設内の様子を多くの写真でご紹介しますが、ヨガの歴史の深さにとても感動する場所でした。
ヨガをしている人は聞いたことがある方も多いと思いますが、「アシュラム」というのをご存知でしょうか?
アシュラムとは、精神的な修養をするインドのヨガの道場のようなもの。日本のヨガスタジオは、ヨガのレッスン、主にヨガポーズをする場所として定着していますが、インドのアシュラムは、生活のすべてがある場所です。
人と共に食事し、共に掃除をし、共に精神的な修養をしながら過ごす場所、という位置付けです。と言っても、私たち日本人からすると何のことだかわからない、という答えが大半でしょう。
しかし、本当のヨガを知る上でアシュラムを知ることはとても役立ちます。今回は、ヨガの聖地、本場インドのアシュラムを訪問した記録を綴ります。
SIVANANDA ASHRAM(シヴァナンダ アシュラム)
リシケシには、多くのアシュラムがありますが、現代ヨガに貢献したSIVANANDA ASHRAM(シヴァナンダ アシュラム)を外して語れません。
Address: Near Ram Jhula, Ganga Vatika, Rishikesh, Uttarakhand 249137 インド
Web Site: http://www.sivanandaonline.org/
MAP:
さあ、敷地へ入って行きましょう。
階段を登り、アシュラムの中へ
アシュラム内では、女性はストールを頭から被り、首回りを覆うのがルールです。
広い敷地内に、立派な道場や学校がいくつかに分かれて建てられています。
まずは階段を登り、1つ目の道場へ。
このシヴァナンダ・アシュラムがある敷地内には、フォレスト・アカデミーというヨーガの総合大学も在り、現在も多くの出家者や学生たちが修行しています。このアシュラムを設立したのは、スワミ・シヴァナンダ(1887-1963)という、偉大な師です。
登ってきた階段を振り返ると奥にはガンジス川が流れ、アシュラムの近くにはシヴァナンダの病院もあります。
スワミ・シヴァナンダは、もともと西洋医学の医師としてマレーシアで治療活動をされていました。そこで、身体だけではなく、心や魂を救う医師が必要とされていると感じ、インドに戻ります。長い放浪生活を経た後、ヒマラヤの麓にあるリシケシの町に身を置き、そこで厳しい修行生活を始めたのです。
その後、師の噂を聞いた人々が徐々に集まり始め、次第にこの地に、アシュラムが形成されました。
さらに進んで、いよいよ道場の中へ。
まずはインドの人たちによく見られる、額につけられた朱い印、ビンディーと呼ばれるこの朱い印を額に印します。トレーに備えられた、3つの小さなカップには、水と朱い粉、そしてグレーの粉もありました。少しのお水を右手の薬指につけ、その指に朱かグレーの粉をつけて、そのまま額につけます。
ビンディーをつける位置、伝統的なビンディーの意味について、そしてインドの女性によく見られる華やかな装飾品の理由については、別の記事で紹介したいと思います。
偉大な師を排出してきたシヴァナンダ アシュラム
アシュラム内には、多くの偉大なる師たちの大きな肖像画や写真が飾られています。師の前で手を合わせ、深々とお辞儀をしていきます。
スワミ・シヴァナンダは、“全ての人に奉仕し、全ての人を愛し、全ての人と親しみ、全ての生きものを愛する” という理想を教え、かつ実践し、伝統的なヨーガの知識を現代に伝えるために、ヨーガや瞑想に関する200冊以上にも及ぶ書物を英語で著しています。それだけでもヨガの世界的な普及にどれだけ貢献したかお判りいただけるでしょう。
また、このリシケシのシヴァナンダ・アシュラムは、多くの偉大な教師が輩出されていることでも有名です。まず1人目は、シヴァナンダ・ヨーガ・インターナショナルの設立者であり、ヨーガとそのライフスタイルを西欧にもたらした先駆者の一人として考えられているスワミ・ヴィシュヌ・デヴァナンダです。
スワミ・ヴィシュヌは、若くしてスワミ・シヴァナンダに出会い、リシケシのシヴァナンダ・アシュラムで出家しました。アーサナの才能を見いだされたスワミ・ヴィシュヌは、アシュラムの初代ハタ・ヨーガ教授として10年以上にわたり奉仕活動に励みました。
その後1957年には、スワミ・シヴァナンダの指示により、西洋にヨーガを伝えるためアメリカに派遣されます。北米に居を構えたスワミ・ヴィシュヌは、シヴァナンダ・ヨーガ・ヴェーダンタ・センターと名付けてヨーガを教え始めました。
スワミ・ヴィシュヌは、ヨーガの複雑な教えや哲学をできるだけシンプルに解りやすくするために、ヨーガの叡智を5つの柱にまとめました。その5つの柱とは、
- 適切な運動(アーサナ)
- 適切な呼吸(プラーナヤーマ)
- 適切なリラクゼーション(シャバーサナ)、
- 適切な食事
- ポジティブシンキングと瞑想
です。
世界中のシヴァナンダ・ヨーガ・センターは、いまでもこの5つの柱を中心として教えを広めています。
もっと詳しく:シヴァナンダヨガ
始まりはプージャとアラティ
時間になると、プージャとアラティの時間が始まります。
皆床に座り、時には胸の前で手を合わせ、時には床に額をつけるほどまでに深々とお辞儀をしながら、マントラや鐘の音を拝聴します。
この様子は正面向かって右側の窓からも拝見することができます。近くによると、たくさんの花とろうそくの灯りでプージャが執り行われています。
プージャはアシュラムだけではなく、日常でも行われます。
私は以前、早朝に本屋さんのご主人がお一人で熱心にプージャを行なっているのを拝見しました。お店のオープン前にプージャを行い、お店とご自身の心を浄化するなんて、とても素敵な行いだなぁと見惚れてしまいました。
私が外で拝見していると、“あと五分、ちょっと待っててね” 、というような合図を送られ、その後もやはり熱心に、マントラを唱えながら開店の準備をされていたのです。
インドの早朝のこのような光景は、なかなか日本では見ることができない光景だと思いました。
道場で感じたスワミの哲学
1つ目の道場を出たあと、別の建物へ。中はとても広く、正面には“BE GOOD DO GOOD” と書かれています。
スワミ・ヴィシュヌの代表的な著書には、ヨーガに関する知識の集大成である “The Complete Illustrated Book of Yoga”(邦題:ヨーガ大全)、および “Meditation and Mantras” など。
スワミ・ヴィシュヌは、弟子が師の家に住んで学ぶグルクラと呼ばれるインドの伝統的な教育システムを基に、今で言うTTC(ヨーガの講師養成コース)を始めました。スワミ・ヴィシュヌは1993年に世を去られましたが、現在では本部をカナダに置き、世界40か所のセンターと9か所のアシュラムを運営する組織へと発展しています。
さらにTTCは今でも引き継がれ、毎年世界各地のアシュラムで行われています。
スワミ・ヴィシュヌの教えは、
Health is Wealth, Peace of Mind is Happiness, Yoga shows the way – 健康は富である、心の平安は幸福である、ヨガはその道を示すものである
と言う言葉に要約されています。
そのほか、シヴァナンダ・アシュラムからは、長年アシュラムの総長を務められた故スワミ・チダーナンダ、また、バージニア州のアシュラムを本部とするインテグラル・ヨーガの創設者である故スワミ・サッチダーナンダ、そして、インドのビハール州にビハール・スクール・オブ・ヨーガを設立した故スワミ・サティアナンダなどが輩出されています。
このように、スワミ・シヴァナンダの教えは大勢の僧職者や教師によって現在まで世界中に広められ、受け継がれています。
スワミ・シヴァナンダのメッセージは、
Serve, Love, Give, Purify, Meditate, Realize – 仕えなさい、愛しなさい、与えなさい、浄化しなさい、瞑想しなさい、悟りなさい
という言葉に要約されているのです。
礼拝部屋で響いたマントラ
その奥に、礼拝部屋があります。
礼拝部屋には、花で囲まれた師の写真と、水、小さなモニュメントがありました。順番が来たら、深々とお辞儀をして、前の人が汲んでくれたコップ一杯の水をモニュメントにかけ、次の人のためにコップに水を汲み引き継ぎます。
コップ一杯の水を次の人のために、と引き継いでいくその工程を、とても美しいと感じました。
さらに別の建物に向かいました。
ここでは比較的小さな部屋で、女性がずっとマントラを唱えていました。途中、
「हरे कृष्ण हरे कृष्ण
कृष्ण कृष्ण
हरे हरे
हरे राम हरे राम
राम राम
हरे हरे
hare kṛṣṇa hare kṛṣṇa
kṛṣṇa kṛṣṇa
hare hare
hare rāma hare rāma
rāma rāma
hare hare
ハレー クリシュナ ハレー クリシュナ
クリシュナ クリシュナ ハレー ハレー
ハレー ラーマ ハレー ラーマ
ラーマ ラーマ ハレー ハレー」
という、ハレー・クリシュナのマハー・マントラが唱えられ始めてからは、みな口々に一緒に唱え始め、次第にそのマントラは大きくなっていき、私は唱えながら涙が溢れ出ました。
「ハレー」は、クリシュナの喜びのエネルギーのこと、幸運の女神の源、究極的なエネルギーの源です。「クリシュナ」というのは、すべての創造の源、私たち魂の根元の源でもあります。また、「ラーマ」もまた、クリシュナの別名で、喜びを与える人。喜びに満ちている人、という意味です。
実は、「ラーマ」の意味は4通りくらいあります。
一つ目は、「ラーマチャンドラ」という、クリシュナの化身である理想的な王の名前。『ラーマーヤナ』というインドの叙情詩があるのですが、その主人公がラーマです。『ラーマーヤナ』はとても貴重な神話ですので、次回、瞑想の記事でもう少し詳しくご紹介します。
二つ目は、「バララーマ」というクリシュナのお兄さんの名前。三つ目は、「パラシュラーマ」というクシャトリアの化身の名前。四つ目は、生命に、信者に、そして、”ラーダー”という最愛の人に、喜びを与え、魅了する、という意味です。
このマントラは世界中で有名で、さまざまなメロディーをつけて、讃歌(バジャン)としても歌われており、「神々の神であるシュリー・ハリを讃える者、神聖な御名であるマハー・マントラを唱える者は、すべての耐え難い罪から解放される」と、さまざまな聖典でこのマントラの功徳の大きさが讃えられています。
サラスワティの像
正面には大きなサラスワティの像が。
両サイドの小さな神の像の表情がとても優しく、癒され、しばらく動けませんでした。祈りを捧げたら、次はガンジス川の神聖な眺めを見に移動しました。
しばらく歩き進むと、小高い丘が現れます。時々猿が出現してハラハラしますが、ここからガンジス川とリシケシの街を一望できました。
とても美しく、空気は穏やかで、ただ深呼吸して目を閉じるだけで深い瞑想に入れそうな場所でした。
次回はさらに深い瞑想ができるという噂の洞窟へ入るため、ガンジス川の上流へ向かいます。