至福と幸福をもたらすとされるヨガ。その過程を示したとも言えるヨガの八支則をまとめています。ただし、古典であるがゆえに現代にフィットしないことも…。単にヨガの八支則を鵜呑みにするのではなく、私たちの日常にどう活かしていけるのかを考えるのが大切です。
ヨガは、ただ柔軟な体を作るだけではありません。TULAをいつも読んでいただいている方はご理解いただいているかもしれませんが、この記事を初めて読む方にとっては何を言ってるのか、理解できないところもあるかもしれません。ヨガは身体的な効果とともに精神的な効果を与えてくれますが、そこから派生してもっと素晴らしい効果を与えてくれます。
ヨガで本当に幸せになれるの?
ヨガは心身のバランスがとれた生活を送りたい方への一つの手段であり、それは方法論とも言えます。ヨガを学ぶということは、本来の自分に帰ること。めまぐるしい生活の荒波にもまれて忘れてしまっていた本来の自分の姿を、ゆっくりと時間をかけて思い出していく過程なのです。その結果として、至福や幸福を感じることができると言われています。
最初に、こう言われてしまうと、ピンときませんよね。確かに、他人にヨガをやれば幸せになれる!と言われても、その背景にある哲学や過程を知らなければ、インチキ!?に聞こえてしまうかもしれません。
しかし、ヨガには八支則というヨガを進める8つのステップがあります。古代の時代に定義されたこの過程は脈々と現代に受け継がれています。それはヨガで、至福、幸福に至る段階と言え、ヨガの八支則を知ることは、私たちに大きな示唆を与えてくれるのです。
パタンジャリの「ヨーガスートラ」とヨガの八支則
ヨガの八支則を知ることはヨガを深める上でも役立ちますが、ヨガをしたことがない人がヨガの素晴らしさを知る上でも大切な哲学と言えます。ここで簡単に説明していきます。
そもそも「ヨガ」の意味は?
ヨガの語源は、サンスクリット語の「ユジュ」からきており「統合する、つなぐ、結びつける」という意味です。しかし他にも「思考を一点に集中させる」「自分自身に意識を集中させる」「瞑想を深める」という意味もあります。
これらの語義から、ヨガは「再び結合する」「失ったバランスを取り戻す」「自己を調和のとれた状態へ導く」と伝えられています。
今から約2500年前、パタンジャリという人物がヨガに関する最初の書物、「ヨーガスートラ」を著しました。パタンジャリ氏は、ヨガを「チッタ・ヴリッティ・ニローダ」=「心の作用の止滅のことである」、すなわちヨーガとは「心を静めるものだ」と定義しています。
さらに、著名な導師である、T・K・V・デーシカチャール氏は、「ただひたすら対象に心を傾け、その状態を何にも妨げられることなく維持すること」だと言います。
八支則は、”Off the mat”(日常)でヨガの状態を維持する指針
ヨガといえば、アーサナ※と呼ばれる坐法やポーズから入る人がほとんどですが、アーサナはヨガの一つにすぎません。上記の通り、ヨガを、私たちの心理状態を指すものとして大きく解釈すれば、その状態へ到達する手法として、海辺を歩いたり、美味しいものを食べたり、意識的に深呼吸をするなどでも構わないとも言えるのです。
つまり、心身の統一感が得られたり、自我とうまく向き合い、寛容になったり、自分を受け入れられるようになったりと、本来の自分を思い出させてくれるものならなんでもヨガと言えるのでは?だからこそ、”Off the mat(ヨガをしていない日常)”にも、ヨガの哲学を取り込むことができるのです。
※ アーサナは「アサナ」と言われることもありますが、「アサナ」は“食べ物がない”という意味がありますので、ここでは「アーサナ」と伸ばします。
八支則を現代にどうフィットさせていくかが大切
その「ヨーガスートラ」で解説された8つの部門からなるものを、Eight Limbs/ Ashtanga(※アシュタンガ)/八支則と言います。(Eight=Ashta=8, Limbs=Anga=部分)
八支則は、一般的に、山や階段のような図で示されているため、その頂上である、八支則の最終目的地に到達するためには、一段階ごとにクリアして、やっと次の段階へ進めるとされています。しかし、そもそも古代に書かれており、現代にそのままフィットさせようとすると無理があります。
上記のような解釈がなければ、いきなり「ヨガの八支則を実践しよう!」と言われても、中身を知って自分ごととして捉えることは難しいでしょう。
もちろん「ヨーガ・スートラ」に記述されたことを尊重することは大切です。しかし現代にフィットしないから否定するのではなく、大切なエッセンスを理解し、私たちの日常にどう取り入れ、フィットさせていくかを考えるべきでしょう。
また、現代の多くのヨガ流派は、ヨガの目標に到達するまでのプロセスを独自に体系化しています。やはりこれは上記の通り、現代にフィットさせるための作業とも言えるのではないでしょうか。
ですから、いきなり八支則を順序通りに実践しよう!というよりも、背景にある哲学を理解し、8つとも同時に進行していくことなど、柔軟に受け入れ実践していくことがとても大事です。
※ スタジオレッスンなどで行われているアシュタンガ・ヨガ、アシュタンガ・ビンヤサヨガの意味とは異なります。
ヨガの八支則(アシュタンガ・ヨーガ)
今後、ヨガの八支則を具体的に紹介していきますので、今回は概要だけお伝えします。本ページの文末に、八支則のそれぞれを具体的に紹介するインデックスを記載しています。
最初1の「ヤマ」と、2の「ニヤマ」は、日常生活での心得です。
1. ヤマ Yama(禁戒)
「〜してはいけない」で表される、他人や物に対して、日常の中で行ってはいけない5つの心得。
2. ニヤマ Niyama(勧戒)
「〜するとよい」で表される、日常の中で推奨される5つの行い。
3. アーサナ Asana(坐法)
ヨガポーズを練習する。いわゆる一般的に知られているヨガ。
4. プラーナヤーマ Pranayama(調気)
呼吸法。呼吸をコントロールする。
5. プラーティヤハーラ Pratyahara(制感)
感覚をコントロールする。
6. ダーラナー Dharana(疑念・集中):
一点集中。感覚が閉じ、周りの物が気にならなくなる。
7. ディヤーナ Dhyana(無心・瞑想):
落ち着きのある静かな精神状態。
8. サマーディ Samadhi(三昧):
悟り。心の平静を保つ精神的喜び。これ以上ない至福。
以下の記事では、八支則の各部門について詳しく解説しています。さあ、八支則の理解を深める旅へでましょう。
ヨガの八支則とは? – あなたの日常に平穏と至福をもたらす大切な哲学
八支則はヨガを実践するうえで大切な哲学です。古典であるがゆえ、そのまま現代に当てはめて考えるのも無理がありますが、私たちの日常に取り込めるエッセンスがたくさん詰まっています。
八支則1のヤマ – うまくいかない時にこそ思い返したい5つの心得
八支則のヤマは、やってはいけない禁戒を定めたもの。道徳的な5つの心得です。現代社会でこれらを守ることは難しいかもしれませんが、解釈によってとても大切な考えであることにも気づけます。
八支則2のニヤマ – 豊かな人生を歩む時忘れない5つのルール
八支則のニヤマはヨガを実践していく上での行動指針。しかし、読み進めていくと現代の私たちに大切な示唆を与えてくれています。誰でも夢や目標は持つべきです。しかし、一歩間違えれば執着と欲望が生まれることも。夢と欲望、その境目は一体どこなのか?ニヤマにその答えがあるかもしれません。
八支則3のアーサナ – “動く瞑想”と言われるアーサナの真実
普段、当たり前すぎてアーサナについて考えることもあまりありません。呼吸法や瞑想の間でアーサナは何を意味しているのでしょう? パタンジャリがヨーガ・スートラの八支則で説くアーサナを今一度見ながらアーサナの本当の姿を紐解きます。
八支則4のプラーナヤーマは、呼吸法や調気法と呼ばれています。私たちの内臓器官はほとんど意識することができませんが、肺だけは意識できることに気づきます。呼吸を通じて自分の心身のバランスを整える術がある。このことがプラーナヤーマの大切さを気づかせてくれるのです。
ヨガの八支則も最終段階です。八支則は至福をもたらす8つの段階、プロセスとしてヨガを支える大切な哲学です。今回は八支則5から8をそれぞれ見ていきます。正直にヨガの言う悟りはわかりませんが、ヨガを深めてきた過程で得られた人生の変化についても触れています。